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【日本女子代表】金メダルへのキーパーソン。今泉守正コーチが大切にする「なでしこプレス」

なでしこジャパンの4月シリーズに帯同し、指導する今泉守正コーチ。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

東京五輪まであと3か月、フロリダ州立大コーチとしての経験も還元。

 東京オリンピックを控えたなでしこジャパン(日本女子代表)はコロナ禍の影響を受けて、2月に予定されていたSheBelieves Cup(アメリカ)参加を取りやめ、それに伴い組まれていた国内キャンプなども見送られた。そんななかでも3月には急遽場所を鹿児島に移し、約2週間の強化キャンプを実施した。海外組の招集は叶わなかったが、続いて行われた4月8日のパラグアイ戦(@仙台)、11日のパナマ戦(@東京)には海外組も参加して久しぶりの実戦。実力的に差のある相手ではあったが大勝をおさめた。オリンピックまで100日を切り、国内外の新型コロナウイルスの感染状況もあって先行きが読めぬなか、今後も限られた時間で強化を図らなければならない。

 悪いことばかりではない。コロナ禍で生まれたニューノーマルは数知れず。そうしたなか、なでしこジャパンでは、今泉守正氏が昨年7月、コーチに就任している。現在フロリダ州立大学女子サッカーチームアシスタントコーチに就いている今泉氏は、アメリカでの活動と女子代表コーチ、その両方で力を発揮している。

 今泉コーチはこれまで、U-17・U-20日本女子代表監督などを歴任。2014年に開校されたJFAアカデミー統括ディレクターを務めるなど、女子サッカーとの関わりは深い。

 現在のなでしこジャパンの候補選手のほとんどとつながり面識がある。今回の就任で、なでしこリーグのほぼすべての試合に目を通し、選手個々の特長や課題点を分析してきたという。

 さらに興味深いのが、自身で足を運んだ昨年のSheBelieves Cupの3試合を大学院生に依頼して得たというデータ分析の内容だ。デュエル、ボールを受ける体の向き、ドリブルなど個々のプレーを徹底的に数値化したそのデータは、選手に説得力も与える。

「全体的にセットプレーでの失点をどう防いでいくか。ゾーンとコンタクトスキルの使い分けという点で課題が見えました」

 今泉コーチは個々のデータをインプットしたうえで、11月にようやく選手たちの実際のプレーを目にできた。

「前線で核になるであろう菅澤(優衣香)、岩渕(真奈)、上野(真実)といった選手がケガでいなかったのは残念でしたが、みんな体の軸はしっかりとしていると感じましたね。やはり日本人の長所は理解力だと改めて感じました。

 コーチングによって選手がチャレンジしていく賢さがある。高倉(麻子)監督もミーティングで言っている、『認知して、情報を集めて、決断して、プレーする』ということは賢くなくてはできないですから」

 初めて合流した昨年11月のトレーニングでは、高倉麻子監督の意図を受けて、メニューのターゲットとなるポジションの「逆」についている選手たちに説明をしていたのが、今泉コーチだった。攻撃のメニューであれば、守備側の選手たちにアドバイスを送る。新たに参加した選手ほど、その吸収スピードは早かった。

「私の声掛けというより、彼女たち自身の意識が高いのだと思います。DFラインで言うと、南(萌華)、宝田(沙織)、高橋(はな)はCBをしていましたが、ビルドアップの際のスペーシングに関してちょっとしたアドバイスをすることで非常にいいポジショニングを取る。彼女たちは日頃からそういう意識を持ってトレーニングをしていることが分かります」

 アカデミー年代だった教え子たちが、なでしこジャパンの一員として活躍しようとしている。彼女たちの指導に再び携わることへの感慨もあるだろうが、ひとたびピッチに立つと、今泉コーチは違和感なく溶け込んでいた。

「みんないろいろ経験して、人間的にも、競技者としても、成長しているところが見えます。ただ選手たちにしてみれば、久しぶりにおじいちゃんに会ったみたいな感じなのかもしれませんね」

 そのように選手たちの成長に表情を緩めた。

 延期された東京オリンピックまで、あと4か月を切った。現状を考えれば、十分な代表活動期間を確保できるとは言い難い。今泉コーチは何を優先すべきかを、しっかり整理している。

「カギは私が勝手に呼んでいる“なでしこプレス”の精度の高さにあると思います。ボールを失ったらすぐに切り替えてプレスをかけ続け、危ない3方向をすべて潰す。この“なでしこプレス”を存分に発揮させること。相手にいいタイミングで走らせない、いい場所に行かせない、コンタクトスキルも含めてどこまで精度を上げていけるかにかかっているでしょう」

 今月のパナマ代表、パラグアイ代表(いずれも7-0勝利)戦を経て、オリンピック本番まで国際親善試合があと3つ組まれている。しかしすべて開催されるかはまだ分からない。

「日本にとって一番大事なのは“優位性”を保つこと。そこを培うには、試合をこなしながら収穫を得ていく全取法が最も効果的であることは確かです。ただ日本の選手の理解力があれば、男子チームと全体の流れを合わせるトレーニング、部分的に連携を上げていくトレーニングとの繰り返しで質を上げることは十分可能だと思います」

 今泉コーチはそのように言う。

 しかしながら、世界中で感染が拡大するなか、思うように代表キャンプに同行することはできていない。新戦力との融合や、攻守の細部の詰めを行った3月の長期キャンプも来日できなかった。それでも、アメリカ在住の今泉コーチだからこそ収集できることもある。

「指導しているフロリダ州立大学で、アメリカ女子代表選手が所属するチームと試合をする機会もあるため、対戦相手になり得る選手の状態を生で見ることができます。フロリダ州立大学にはアメリカ以外の各国の代表選手もいるので、様々な情報を獲得できています。これは自分がアメリカにいるからこそできることです」

 ただ他国をスカウティングするのと、なでしこジャパンの選手たちを細かく分析・把握した上で他国チームの特長を探るのとでは情報を拾う角度も異なる。ライバル国の実情を得難いこの現状では今泉コーチがもたらす生きた情報は貴重だ。

 今秋にはWEリーグの開幕を控える。オリンピックまでの空白期間を埋めるため、海外挑戦した選手も多い。一方、国内では若い選手たちが台頭してきた。あらゆるパワーがオリンピックのため、なでしこジャパンに集約される。そのなかに今泉コーチが加わったことで、新たな視点からも、チーム全体の底上げが図られている。

 オリンピック開幕まで約3か月——。できないことを憂うより、できることを最大限に。ここからはあらゆる角度から得られる“情報”を柔軟に取り込みながら、ベクトルを自分自身に向けつつ限界ラインを押し上げられた選手が「18枠」を獲得するだろう。

なでしこジャパンは、パナマ、パラグアイ戦を経て、東京五輪に向けて準備をさらに加速させる。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

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[取材・文・写真:早草紀子]

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