【シアトルレインの日々 #1】川澄奈穂美がアメリカで掴んだ新たな感覚
相手選手と握手をかわすシアトルレインの川澄。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
若い選手が多い――なでしこジャパンと共通する環境下で、成長を続ける。
「満を持して」か「背に腹は代えられぬ」か――。
川澄奈穂美(シアトルレイン)が2年ぶりになでしこジャパンへ復帰した。就任から2年が経った高倉麻子監督のもと、来年のFIFA女子ワールドカップ・フランス大会の予選となるアジアカップ直前のタイミングで初めて招集された。
ナショナルウーマンズリーグ(NWSL)のシアトル・レインFC(アメリカ)では3シーズン目を迎え、同僚の宇津木瑠美とともに中心選手として欠かせぬ存在となっている。昨シーズンは1試合で1ゴール4アシストというパフォーマンスを見せて月間MVPを獲得するなど、その活躍は様々な記録にも表れていた。
感嘆させられたのが、アメリカの縦に速い、いわゆる「縦サッカー」にしっかり順応していたことだ。チャンスメーカー(アシスト役)はもちろん、ゴールゲッターにもなれる。「完璧でなくてもいいから早い段階でパスを出してほしい」と川澄が選手に要求していたのは、相手が揃う前に少しでもイニシアティブを取るためだった。
最も磨きをかけたのがポジショニングだった。「『ここに出して大丈夫だよ』っていう位置にいるようにしています」と川澄は言っていた。そしてボールが入れば、瞬時に相手と味方の位置関係を把握し、味方に最適なパスを送る。こうして味方選手との信頼関係を深め、彼女のパスがゴールを引き出していった。
こうした感覚はアメリカで間違いなく研ぎ澄まされていった。だからこそ157センチというアメリカ人の中では明らかに小柄であっても、縦のスピードと、裏を取るプレーを際立たせることが出来ていった。
しかも彼女はどんなパスに対しても全力疾走した。
追いつくかどうか難しいボールにも。もちろんそうすることで、プレーの選択肢を増やすという意味はあった。加えて何よりシアトル・レインには若い選手が多かった。だからこそ、一本のパスの成功体験を植え付けていった。川澄が蓄積してきた戦術眼が活きたのだ。
若い選手たちの中でこそ生きる、川澄の技術と経験――。まさに、今、なでしこジャパンが必要としている力を、川澄はアメリカで身に付け、さらなる成長を遂げていた。
(後編「アメリカでも常に意識していた『なでしこジャパン』」は3月29日朝に更新予定です)
取材・文:早草紀子
text by Noriko HAYAKUSA