【インタビュー】長谷川唯「強豪国は立ち位置が本当に良かった」。なでしこ東京五輪&ウェストハム移籍を語る
なでしこジャパンとして東京五輪に出場、このほどイングランドのウエストハムへの移籍が決まった長谷川唯。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
急速に発展するイングランド女子リーグで、「日本人ならではのプレーを出せるような選手に」。
東京オリンピック、長谷川唯は準々決勝敗退という厳しい現実をどのように受け止めているのか。 そして日本の攻撃を牽引してきた彼女は今夏、イタリアのACミランからイングランド(スーパーリーグ)のウェストハム・ユナイテッド・ウーマンに移籍することを決めた。ベスト16に終わった2019年のフランス女子ワールドカップ(W杯)、最も“世界”を感じたチームに挙げていたのがイングランドだった。
オリンピックで感じた正直な思い、今すべきこと、新天地に懸ける覚悟——。これからのなでしこジャパンを鮮やかに色付けていく存在になる長谷川がインタビューに応じてくれた。24歳のアタッカーは俯くことなく前を見据えていた。
――◇――◇――◇――
――東京オリンピックを終えて少し時間が経ちました。今、改めて思うことは?
「大会中に感じていたことと、終わった今の自分でも、試合を見ると感想は同じなんです。やっぱりまだまだ足りなかった。決勝や3位決定戦も見ましたが、そこではゴールに迫る迫力がフォーカスされていて、でも私たちはそこまでも作れていなかった。迫力を出すシーンを作らせてもらえなかった。まだまだ力不足だと感じました」
――2019年の女子ワールドカップでベスト16にて敗れたあと、「やれることもあった」と前向きな言葉も聞かれましたが、今回は……?
「ワールドカップの時はまだまだできる部分も、と感じましたけど、オリンピックでは危機感が大きくなりました。日本として、どこから崩すかという意識は統一されてきていました。でも、それを上回りイギリスなどはいい位置に選手が立ってるんです。論理的なところを自分的には大事にしているけれど、そこで相手の方が上だった。ワールドカップの時はイングランドにそれを一番感じたんですけど、オリンピックではどのチームもいい位置……自分たちにとって嫌な位置に立っていると感じました」
――オリンピックのほうが2年前よりも差を感じたと?
「そうですね。対戦チームの戦術は、日本以上にもっとポジションがいいチームがあったので、そういうチームに対抗するには自分たちもそこをやる必要がありますよね」
――ちょっと自分たちの考えは甘かった、ここをやっておくべきだったと思うところはありましたか?
「うーん……状況によってやり方を変える、というところでしょうか。今回イギリス戦(●0-1)があったからこそ、スウェーデンとの試合(●1-3)もできたと思っています。イギリス戦は相手がスピードやフィジカルを生かしてくるので前から行きすぎずに、やられない守備を狙っていたけれども、やられっぱなしでした。あの試合は勝ちに行きたい試合だったので、時間帯によってもう少し攻撃的な守備もやらないといけなかったのに、受け身に回りそれが出せなかった。その反省から準々決勝のスウェーデン戦は前からしっかり行こうと話し合いました。相手の圧力を受けている時は少しブロックを引いたり、オプションがある状態で入ると慌てず意思統一できていました。そういうオプションをもっと増やすことは大事だったと思います」
――コロナ禍で強豪と試合を組めなかった影響も大きいですね。
「親善試合では攻撃のコンビネーションのいいところが出る試合が多かったので、追い込まれた状況にならないとイメージしづらいのは確かにありました。ただイングランド(今回、東京五輪のイギリス)とは対戦していて、攻撃の際に少し前に出てきてほしいと伝えても実行に移すことが難しかったところがあるので、もっと試合前からこういう状況になったらこうしようとは伝えるべきだったとすごく思います」
――臨機応変さ。
「あとは全員がそのようにしようと思っていたか、というところ。チームでこう戦おうと描き、それだけになってなかったか? それだけになっていた選手もたくさんいて、個人の部分ではありますが、そこをチームとして、もっと考えるべきだったと思います」
――東京オリンピックはカナダが初優勝しました。グループリーグの初戦で対戦したカナダは1-1で引き分けています。そこからカナダは優勝まで上り詰めました。カナダにあって、日本になかったものは何だと思いますか?
「守るべきところで守る、PKでもいいから点を獲るというところ。ペナルティエリア内に入る回数が増えればVARもあり、ゴールの可能性、確率は上がります。その中に入る回数はカナダと違いました。カナダはフィジカルとスピードがあるので、その状況に行きやすい。日本は個人で打開するのも大事ですが、チームとしてのポゼッションの仕方や狙うスペースの共有をしていかないと、進入する回数は増えていかないと思います」
――では日本がそうした相手との対戦で優位性を見出すためには、どのような要素が必要だと考えますか?
「今大会、強豪国は立ち位置が本当に良かった。根本的にそれを日本も取り入れなければ世界に置いていかれる。そこにプラスして、それこそ自分だったら海外で個人での対人のところを磨くことを同時進行しないと対応できなくなると感じます。WEリーグが開幕して、海外の力のある選手が来てくれるのも大事ですけど、日本と海外のチームでは守り方も違います。 もちろん日本でやっているからこそ伸びる部分もあるし、海外だからこそ伸びる部分もある。難しいところですけど、自分は個人のレベルアップにプラス、理論的な立ち位置のところも取り入れないといけないと思います」
――育成年代を含め、高倉麻子監督とは本当に長い付き合いでしbた。一緒にトップのオリンピック、ワールドカップを戦ってどうでした?
「高倉監督は個人の長所を生かすサッカーだったので、ポジションにこだわらず自由に動いて自分のプレーを出そうとアンダー世代から言われてきました。アンダーの頃は世界に出ても日本のほうが技術が高くて、スピードもそこまで差がなかったから、自分たちが自由にやっていれば勝てました。でもフル代表になると、それが全部できるかと言われたらできない場面が増えてきました。高倉監督から求められていたことを要所要所に入れていくのは大事で、今後に生かせると思います。自由に動くだけでもダメだし、規則的すぎてもダメ。それを両立できるチーム作りのために、今までの経験を生かしていきたいです」
――新天地にウェストハムを選んだ大きな理由は?
「代表で戦ってもイギリスやイングランドはいいチームだと思いますし、個人個人のフィジカルを生かしたサッカーに、本当にいい位置に立っているのでマークを取りづらい。強くプレスに行かせてもらえない場面が多かった。そういうサッカーをしているリーグは魅力的だと思いました。あとスピードを生かしてくる相手に対し、どう対応するのかイメージが掴めていないので、その新しいところに行きたいというのが決め手になりました」
――新天地での“相棒”となるスパイクのこだわりは?
「特に皮! 人によって違うと思いますが私はフィット感を大事にしています。なるべく試合だけのスパイクを用意して、最初は練習で慣らして、ベストの状態になったら試合用にしています。今回のオリンピックは皮の状態もベストで臨めました」
――東京オリンピックでは大会途中で、急に湿度が上がりましたね。
「そういう時は普段より少し柔らかくなりますが、足がズレることはありません。むしろ自分は湿度が上がったほうが好きかもしれません(笑)。コーティングもされていて、あまり(湿気なども)入り込まないんです」
――イングランドの気候にも合ってるかもしれませんね。では最後に新天地での意気込みを!
「イングランドはリーグへの力の入れ方がすごいです。急激に発展しています。そんなリーグに置いていかれないためにも、そこで日本人ならではのプレーを出せるような選手になれるように努力をしていきたいと思います!」
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[取材・文:早草紀子/構成:塚越始]