【指導者の視点】浦和の「時間」を奪った対策。神戸大勝のメカニズムを紐解く
神戸のアンドレス・イニエスタ。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
酒井&明本のサイドバックは前に出られず、神戸中盤の数的優位を常に保たれる。
[J1 31節] 神戸 5-1 浦和/2021年10月2日15:03/ノエビアスタジアム神戸
J1リーグ上位対決の浦和レッズとヴィッセル神戸の一戦は、神戸が5-1で圧勝を収める意外な展開となった。試合の大局を決定づけた前半の戦いから、神戸の明確な二つの浦和対策に注目して紐解きたい。
◎浦和レッズの「時間」を奪う積極的な前線からのプレッシング
浦和はリカルド・ロドリゲス体制となって、ボールを保持しながら主導権を握る戦いを目指している。指揮官が徳島ヴォルティス時代から採用している戦い方であり、キーポイントとなるのは、選手ひとりひとりが適切なポジショニングを取り、相手の変化に応じながら、空いたスペースを利用しながら前進し、ゴールに向かうことである。
この試合で神戸は4-3-1-2システムで明確な狙いを持ち、相手のビルドアップの「前提」を覆しにいった。
簡単に言えば、相手の「時間」を奪うことで浦和に良いポジショニングをさせないこと。具体的な現象で言えば、大迫勇也、武藤嘉紀がセンターバックやGKにプレッシングをかけ、それに呼応する形(ボール状況を見て相手のプレーを予測すること)で、中盤の選手たちがサイドバックやボランチに対し、厳しいディフェンスにいった。
それにより浦和のボールロストを誘発し、高い位置でのボール奪取を可能にした。神戸の2点目、3点目(いずれもアンドレス・イニエスタの得点)の流れは、いずれも前線からのハイプレスが始点となったものだった。
ポジショニングを取るために最終ラインを活用する、普段の「時間」を奪われた浦和は、立ち位置で優位に立てず終始後手を踏む形となってしまった。
◎中盤に数的優位を生み出す配置で、試合の主導権を握る
神戸はこれまでの4-2-3-1から、スタートポジションで中盤にダイヤモンドを作る4-4-2(=4-1-3-2)システムを採用した。浦和の守備時のシステムは4-4-2もしくは4-4-1-1であった。システムの噛み合わせを考えると、神戸は中盤に数的優位を作りやすい状態となっていた。
神戸の攻撃での規則的な動き(いわゆる浦和対策として準備してきたもの)は以下の4つだった。
○ゴールキーパー +センターバック +サンペールでのビルドアップ
○幅はサイドバックが基本的に確保し、浦和の中盤の4人のギャップ(人と人の間)に選手を配置(郷家友太、佐々木大樹、イニエスタ or 大迫)
○イニエスタがフリーマンとして自由にポジションを変える
○浦和のサイドバック(酒井宏樹と明本考浩)が郷家、佐々木に食い付いたら、サイドバックの裏のスペースに大迫、武藤がランニングする
このメカニズムによって、浦和は厳しい状況に追い込まれていった。中盤での相手の数的優位を打開するため、サイドバックが前に出ると背後を突かれ、背後のスペースを気にすると、中盤の数的優位を生かされ前進されてしまったのだ。
さらに浦和を苦しめたのが、大迫、武藤、そしてイニエスタの個人の優位性である。
ボールを奪えそうな状況を作っても大迫にキープされて時間を作られたり、イニエスタが展開を先読みしてサイドに起点を作って動いたりと、ボールを奪う的をほとんど絞らせてもらえなかった。そのため、良い形でボールを奪えるシーンはほとんどなく、自陣に押し込まれる展開が続いた。
神戸はこの二つの対策を徹底して遂行し、ボール保持時に相手を押し込み、奪われても敵陣からハイプレスをかけてボールを奪い返す好循環を作り出していった。そのため終始主導権を握って試合を進められたように思う。その結果が前半の3−0であり、勝負を決したポイントとなった。
【著者プロフィール】
佐川祐樹(さがわゆうき)
1992年4月25日生まれ。広島県出身。広島大学大学院時に指導者キャリアをスタート。広島皆実高校サッカー部コーチ、広島修道大学サッカー部監督を経て、2018〜2020シーズンの3年間、FC今治のU-14コーチを担当。元日本代表監督でFC今治オーナーの岡田武史さんから「OKADA Method」を学び、原理原則やプレーモデルを大切にする育成法を学ぶ。現在は、山口市役所で勤務しながら山口県のサッカーに携わっている。
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