【日本代表 推薦状】FC東京DF室屋成を吹っ切らせた長谷川健太監督の一言
FC東京の室屋成 写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
転機になった先発落ち。「だったら、めちゃくちゃ攻めてやろう」
[J1 14節] FC東京 0-0 札幌/2018年5月13日/味の素スタジアム
日本代表のFIFAワールドカップ・ロシア大会を控えた親善試合ガーナ代表戦(5月30日/日産スタジアム)に向けたメンバー発表が近づいている。
相次ぐ主力の負傷やテストの不調により、サイドの人材が現時点で計算が立たずにいる。そんななか、今Jリーグで突出したパフォーマンスを見せているのがFC東京の右SB室屋成だ。チームを2位に導く、その原動力の一人に挙げられる。
5月13日のJ1・14節の北海道コンサドーレ札幌戦、53分に自陣ゴール前からカウンターで一気に駆け上がり、GKク・ソンユンとの1対1に持ち込んだ。しかし、左足で放ったシュートは札幌の守護神にセーブされてゴールならず……。
ただ、そのダイナミックなアタックが、この日、最大の見せ場をもたらした。
「もう少し違いを作れていければ、もっと良くなっていける。(試合終盤の)そこからチャンスだと思っていた時間に、相手のウイングバックに守備的な選手が入ってきただけに、そこで『あら……』とは思いました(苦笑)」
室屋の攻撃参加を封じるように、札幌が守備を固めてきた。そのあたりにも彼の終盤のカウンターを警戒していたことが分かる。
長谷川健太新監督を迎えた今季、開幕からリーグ3試合連続でスタメン出場を果たしたが、その間、1試合も勝てなかった。すると、4節から2試合、室屋は先発を外された。
そこで室屋は長谷川監督に、一体、何が課題なのかを聞いたという。
すると指揮官から、意外な言葉が返ってきた。
「もっと思い切り攻めてもらいたい」
DFであるため、まず、何より失点をしたくない。慎重に試合を崩さないこと。そのために、まずは守備から、という意識が当然のように頭にあった。ただ、その姿勢が新指揮官には、消極的だと受け止められていた。しかも結果が伴わず、プレーがこじんまりしていると思われた。
6節のV・ファーレン長崎戦(〇5-2)で先発復帰を果たす。そして7節のホームで迎えた鹿島アントラーズ戦(〇2-1)では、大胆に攻め上がってクロスにシュートと圧巻のパフォーマンスで、室屋自身のゴールを含め全得点に絡み逆転勝利を収めた。
長谷川監督からの言葉で、室屋は考え方を変えた。
「だったら、めちゃくちゃ攻めてやろうと思った」と吹っ切れたのだ。
ディエゴ・オリヴェイラと永井謙佑の2トップの爆発が、FC東京の好調の一因に挙げられる。さらに室屋がこうして積極的な姿勢を貫くようになってから、チームが快進撃を遂げた点も特筆したい。
2016年のリオデジャネイロ五輪で3試合に出場し、昨年のE-1東アジア選手権で代表デビューは果たしている。ただ、そこからは代表でのチャンスを得らずにいる。
ダイナミックなプレーを掴んだ24歳のサイドバックは、日本代表の西野朗監督の目にどのように映っているだろうか。
もちろんまだ粗削りな部分はあり、主力メンバーとの連係面の不足など課題はある。その一方で、爆発的な運動量と献身性を持ちながら、そのカウンターの鋭さと力強つは凄まじさを増し続け、加えて3バックにも4バックに対応できるのも魅力だ。そのプレーがJより高いレベルでどのように通じるのか――さらに突き抜けていくのではないかと期待を抱かせてくれる。室屋が日本の”隠し玉”になれるのではないか。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI