【日テレ・ベレーザ】村松智子が実現した「ひざシート」。三度の前十字靭帯損傷を経験、感謝を込めて“仲間”の輪を広げる
「ひざ仲間」とオンラインで意見を交わしあった日テレ・ベレーザの村松智子。(C)TOKYO VERDY
悩みや不安を抱える「ひざ仲間」と情報交換、試合へ招待。
発足2シーズン目のWEリーグはオフザピッチでも様々な試行錯誤が続き、そのなかで女性の視点だからこそと言える、新たな取り組みも行われている。
村松智子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)がこのほど実現したのが「ひざシート」だ。
「“ひざシート”みたいなのを作りたいんですよね」
彼女がそう“構想”を口にしていたのが昨年9月だった。
日本女子代表(なでしこジャパン)入りも期待された村松だったが、これまで前十字靭帯を三度損傷している。
一回の全治期間は約8~10か月だが、それも順調に行けばという条件付き。実戦のピッチに立って再び故障するケースもある。ベストパフォーマンスに戻す、あるいはケガをする前を超える領域に突入できる選手は年齢が経つほど限られる。
痛みと格闘し相談しながら長いリハビリに向き合ってきた村松は、「仲間の存在」に背中を押してもらえたと言う。
初めてケガをした時の失望、そして孤独なリハビリは不安との闘いでもある。そんな時、同じケガに悩む仲間がいて、相談し、不安を吹き飛ばし、前を向ければ――。
村松のそんな思いが4月2日のWEリーグ13節、味の素フィールド西が丘での大宮アルディージャVENTUS戦で実現した。
スタンドの一角に設けられたのが“ひざシート”だ。ニチバン株式会社の協力のもと実施された。
男女年齢を問わず、小学生から50代まで、「ヒザのケガをした経験のある方」「ヒザのケガで今リハビリをしている方」「ヒザのケガで悩んでいる人」の“ひざ仲間”13人が集まった。
この日を前に、村松は参加者とオンライン交流会を実施。前十字靭帯損傷の経験者のみならず、ヒザ軟骨の悩み、先天性の問題を抱える方――参加者がどのような壁にあたり、どのような不安を抱えているのか。一人ひとりそれぞれの状況を聞いて、村松は自らの経験などを伝えた。
やや緊張気味でスタートした画面越しの初交流は、徐々に和やかな雰囲気へと変わっていった。それも村松のキャラクターによるものだろう。
「可動域には苦労しました」
「スケジュール通りには、なかなかいかないもの。まず最初の段階で、しっかりやった方がいいです」
「走り始めは違和感があるけど、そこはそんなに気にしなくていいと思いますよ」
「痛みも含めてこのヒザが、今の自分のヒザなんだと受け入れることで、自分は楽になっていきました」
「ジャンプやターン、怖いと思うプレーは怖くなくなるまで繰り返して、大丈夫だと身体に思い込ませました」
経験した者しか知らない村松の生きた言葉が参加者に伝えられていった。
「緊張しすぎました。対面だとまた違ったと思うんですけど、あと5回くらいはやりたいです(笑)。もう、皆さん、『ひざ仲間』! 練習メニューの情報交換など今後も企画を募集しながら続けていきたいです」
それぞれの実体験と個性を生かした発想からのアプローチ。選手主導のこうした小さな一歩から、WEリーグは形作られていくのではないだろうか。
[取材・文・写真:早草紀子]