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【指導者の視点】浦和ACL制覇、スコルジャ監督の守備メカニズムを紐解く。アル・ヒラルを徹底解剖し選手が遂行する

ACLを制覇し、表彰式で歓喜する浦和のスコルジャ監督(左)と荻原拓也(右)。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

徹底されたオタイフ―イガロのセンターライン封じ

[ACL決勝 第2戦] 浦和 1-0 アル・ヒラル/ 2023年5月6日18:00/埼玉スタジアム ※2試合トータル 2-1で浦和が優勝

 AFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)決勝・第2戦、浦和レッズに1-0の無失点勝利とビッグタイトルをもたらした、マチェイ・スコルジャ監督の仕込んだ守備のメカニズムを紐解きたい。

 それを上回ろうとしてくるアル・ヒラルの迫力も凄まじかった。それでも浦和の選手全員が指揮官の意図と狙いを理解し、遂行しきって手にした優勝だったと言えるのではないだろうか。

 浦和は守備時、基本システムの4-2-3-1から興梠慎三と小泉佳穂が横並びになる4-4-2で対応。その際、徹底されていたのが「バイタルエリア中央のスペースにボールを運ばせないこと」だった。

 アル・ヒラルの4-3-3システムに対し、2ボランチの浦和の中盤は数的不利が発生する。逆にそのズレを活用して前進するのが4-3-3の狙いでもある。

 そのシステム的な噛み合わせがあるなか、浦和はミドルサード(ピッチを3分割した中央エリア)に相手を引き寄せ、そこで最前線の興梠慎三からコンパクトな陣形を保ってボールを奪おうとする守備を行っていた。

 戦術的な特徴は二つあった。一つが前線2枚によるアンカー潰し。興梠と小泉佳穂が、相手のセンターバック2枚とアンカーの3人をチェック。そしてアンカーのアブドッラー・オタイフが良い状態でボールを受けられない状況を常に作り出していた。

 もう一つは、ストロングポイントであるセンターフォワードの9番、オディオン・イガロに起点を作らせないこと。彼へのパスコースにボランチ(特に岩尾憲)が必ず立ち、危うい場合ではCBと挟み込めるようにしていた。

 この二つの戦術がハマった。

 アンカーに自由を与えず、CFイガロのパスコースを封じる――。こうしてアル・ヒラルは、爆発的な破壊力を引き出せる中央のラインを有効に使えず、ストレスを抱えていった。浦和がその武器を、狙い通り封じたと言える。

 また、守備の原理原則であるが、アル・ヒラルのバックパスや横パスに対し、浦和はチーム全体でラインを押し上げて、ファーストディフェンダーが必ずプレッシングに向かっていた。

 アル・ヒラルの最終ラインのボールホルダーに必ずプレッシャーをかけて、次のパスコースも予測。浦和はセカンドディフェンダーがいい形でボールを奪えたり、パス経路を外に追い出したりすることができていた。

 アル・ヒラルはプレッシャーを感じながらプレーを続け、大外のレーンからのクロスが増えていった。ただ、そこにはアレクサンダー・ショルツ、マリウス・ホイブラーテンが待ち構えていた。

 それでもアル・ヒラルの迫力は流石だった。代表レベルのタレントが揃う個々のクオリティは高く、ペルー代表MFアンドレ・カリージョらが1枚交わせばたちまちチャンスを作り、試合終盤のパワープレーからこじ開ける一歩手前まで持ち込んだ。ただ浦和はそれを上回る体を張った粘り強い守備、そしてGK西川周作の好セーブもあり、ホームで(強風も吹くなか)ミスなく無失点に抑え込んだ。

 浦和の三度目となるACL制覇。スコルジャ監督がアル・ヒラルを徹底解剖し、仕込んだ守備メカニズムがハマった。レッズの選手たちは全員がそれを理解して迷いなくピッチに立ち、燃えるようなサポーターの声援を背中に受けて、180分間を戦い切った。

【著者プロフィール】
佐川祐樹(さがわゆうき)
1992年4月25日生まれ。広島県出身。広島大学大学院時に指導者キャリアをスタート。広島皆実高校サッカー部コーチ、広島修道大学サッカー部監督を経て、2018〜2020シーズンの3年間、FC今治のU-14コーチを担当。元日本代表監督でFC今治オーナーの岡田武史氏から「OKADA Method」を学び、原理原則やプレーモデルを大切にする育成法を学ぶ。現在は、山口市役所で勤務しながら山口県のサッカーに携わっている。

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