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【Jリーグ】秋春制移行「このタイミングではない」のでは? メリットは選手の海外移籍ぐらい

写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

降雪地の問題はほぼクリア、一方、最も重要な「Jリーグのレベルアップ」が見えてこない。

 Jリーグが早ければ2026年からの採用を検討している「シーズン秋春制」への移行について、現在4つの分科会で議論が行われている。AFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)の2023-24シーズンからの「秋春制」への移行に伴い、日本サッカー協会(JFA)が同様の変更が可能か議論してほしいと諮問。その可能性について探っている。

 これまでのJリーグからの発表を総合すると、基本的にこの課題に取り組んでいるプロジェクトチームはより具体的な案を説明。「どうすればシーズン以降できるか?」という前提で話が進んでいる。

 また、当初から問題視されてきた降雪地での開催に関しては、むしろほぼクリアになっていると言える。現状のシーズンのように3月上旬まで試合を開催しないことなどが盛り込まれる。逆に「秋春制」になれば、開幕カードが組めるなどメリットも多く、逆にこれまでの問題点も改善される面もある。

 もちろん一方で、開幕からしばらくの間は逆に降雪地以外のカードが減る、ウインターブレイク明けの重要な時期に降雪地のホームゲームが組めない、といったまた新たなテーマも出てくる。

 そしてJPFA日本プロサッカー選手会の吉田麻也会長はシーズン以降についてDAZNの番組内で、「マジョリティ(多数派)的には、賛成が占めている」と語る。また一部報道では、日本サッカー協会(JFA)の宮本恒靖理事がこのテーマについて、「選手ファーストで考えるべきだ」と意見したと伝えられる。

『日本人選手が欧州のリーグへ移籍しやすくなる』

 秋春制移行は、AFCをはじめ世界のサッカーカレンダーに日本が合わせられることに加え、現状では「選手の海外移籍」ぐらいしかメリットが感じられない。それも現在の海外流出の潮流は変わらないが、それがより加速することが容易に想像できる。

 果たして、それがJリーグにとって得策なのか。降雪地の問題がクローズアップされがちだが、そこを傘にせず、今後はサッカー面の具体的な点に踏み込んだ話も求められる。

 現在のJリーグの移籍マーケットは冬の第1期間が1月~3月(約3か月)、夏の第2期間が7月~8月(約1か月)に設定されている。通年性は、ブラジル、アルゼンチン、北欧各国などのリーグと同じで、そういった背景もあって、Jリーグでプレーするブラジル人選手が多かった歴史がある。加えて近年のデンマークやノルウェーなど北欧から有力選手の来日も実現してきた。同時に、セルティック時代のアンジェ・ポステコグルー監督(現トッテナム・ホットスパーFC)は、冬の市場で日本人選手を獲得しやすいという点を活用したのも記憶に新しい。

「秋春制」になれば、Jリーグも欧州5大リーグを頂点とする移籍マーケットの同じタイミングで、選手獲得の競争が求められるわけだ。

 しかも同じAFC内のサウジアラビアで、クリスチアーノ・ロナウドのアル・ナスル加入を皮切りに、この夏、ビッグネームが相次いで同国に渡った。また、谷口彰悟が移籍したカタール・リーグもこのバブルの余波を受けて盛り返す。AFC内の時代は明らかに中東にある。

 2022年のJ1クラブトップの売り上げは、浦和レッズで81億2700万円だった。ちなみに、ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFCが日本代表FW三笘薫に設定している移籍金と言われるのが80億円である。

 サウジのサッカー市場への参戦で、スター選手の獲得は移籍金100億円以上が当たり前になりつつある。欧州と中東など同様のマーケット期間に参戦し、今のJリーグのクラブが、そうした世界で戦える体力は正直ない。

 また、Jリーグは学校などと同じ年度で区切られるからこそ、注目されてきたのもまた事実だ。ユース・高校・大学の新卒選手の扱いはどうするのか。卒業できるか分からない学期中の加入は事実上“不可能”でもある。

 またWEリーグは秋春制を採用している。現在2023-24シーズンの新体制についていろいろ発表しているものの、あまり話題に上らない。

 Jリーグが案として設定しているのが7月下旬から8月上旬の開幕である。世間が猛暑に困りつつ夏休みの最中、むしろお盆に入って(特に会社など組織は)“年末”さえ頭にチラつく時期に「さあ、Jリーグ開幕だ!」と言って、日本で注目を集め盛り上がるだろうか。

 現状では「秋春制」を支持する選手・監督や仲介人など関係者の声が強くなっている印象を受ける。ただし、スムーズな移籍が可能になると主張していて、「Jリーグのレベルアップ」と話がリンクしていない。そこが非常に気になる点だ。

 プロフェッショナルのエンターテイメントであるからには、観戦者・ファンの立場は、もう少し考慮すべきだろう。 

 シーズン以降は、「今ではない」のではないか。現状では採用されている通年性のほうが比較すると“まだ”メリットが多くある(秋春制で失うものが多い)

 Jリーグは、シーズン移行のタイミングを逸した印象を否めない。むしろ前回議論していた2017年頃であれば、DAZNの参戦とともに、さあ盛り返そう! と勢いのあった時代だっただけに、気運的にも“あり”だったと言え、実際スター選手も日本に来た(降雪地のクラブへの説明不足が大きかった。今回のように配慮できていれば……)。

 ただちょうどこのタイミングで、アンドレス・イニエスタがヴィッセル神戸から去り、Jリーグの世界的なシンボルはいなくなった。

 世界的に見れば、日本はビッグネーム不在のリーグになっている。しかも勢いのあるサウジアラビアやアメリカに見られるような、ここからのプラス要素がJリーグにはあまり見当たらない。外資参入!? それはあまりに飛び道具すぎて、予測すらできない。

 むしろ欧州への人材輩出に軸足を置いた「育成リーグ」として、地域クラブ活性化をテーマに掲げる野々村芳和チェアマンのもと、よりドメスティックなリーグにしていくのも決して悲観することではないと言える(一気に拡大された外国籍選手枠の再考なども一案ではないか)。AFC( アジアサッカー連盟)主催のアジア規模のカップ戦がUEFA(欧州サッカー連盟)を真似て三層構造で実施されることも決まり、逆にその点を生かして国内の大会を面白くしていくことこそ求められる。

 もちろん選手会の吉田会長が主張した選手の「ABC契約」をはじめ、既存ルールを当たり前として運用しようとし続け、世界の潮流と一線を画した“時代遅れ”な対応が多いのもJリーグの特徴であり大きな課題だ(決して悪い面ばかりではない一面もあるが)。

 秋春制に移行する場合、準備期間があるとは言え、このまま世界に挑んでも、勝機があまり見えて来ないのだ。ただむしろ、世界の荒波に繰り出したほうが、物事が大きく動く、という捉え方もできそうだが――。

Posted by 塚越始

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