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【Jリーグ秋春制】「梅雨閉幕」が『最高の作品』だろうか。サポーター・観客置き去りの議論になっていないか

写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

夏場における選手のパフォーマンス低下を強調、ただリーグ戦の醍醐味は…。

 Jリーグは8月29日、理事会後の記者会見を行い、議論を進めている秋春制へのシーズン以降について、担当者と野々村芳和チェアマンが現状を報告した。日本サッカー協会(JFA)からの検討要請に対し、基本的には「どうすれば秋春制へシーズン移行できるか」という方向で話が進んでいる。

 ただ、ヨーロッパ・中東とサッカーカレンダーがほぼ一緒になり日程面など対応しやすくなる、選手や監督の「移籍がしやすくなる」という現場目線のメリットは感じる一方、Jリーグとしてのメリットがあまり見えてこない。本来の狙いであるはずの「秋春制にすることで、Jリーグがより強くなる」という具体性が見えてこない。

『日刊スポーツ』は8月12日、WEB版で北海道コンサドーレ札幌のサポーターとの意見交換会での質疑応答の様子を掲載している。そこでシーズン移行について、サポーターから「JリーグやJFAからはメリットばかりが提示され、出来レースに感じる」という声が掲載されている。この意見は的を得ていると言える。

 例えば、移籍について。Jリーグは現状ではシーズン途中の引き抜きがあり、チーム編成に大きな影響を及ぼしている。その問題が秋春制にすることで解消されるとして、次のように「シーズン移行の検討」に関する資料で記している。

「Jリーグのシーズン中に『有力選手が欧州移籍してしまう』ことが大会価値の向上を妨げている可能性があり、これを減らすことは重要だ。また欧州からの選手・監督の獲得がしやすくなるという面もあり、Jリーグの競争力向上へも寄与する」

 もっともだ、と思う人が果たしてどれだけいるのだろうか。

 秋春制にすれば、確かに「シーズン中の移籍」は減るかもしれない。しかし、Jリーグから海外への選手流出は、さらに加速することが大いに考えられる。よりボーダーレスになり、欧州のマーケット期間とも重なり、さらにフリートランスファーとなっての移籍もしやすくなる。

 むしろ、その流れこそ必然で「日本人選手のレベルアップ」につながり得る。ただ議論のなかで、その視線を「無視」していることに逆に驚く。流出阻止ではなく、その移籍流出が進むなか、ではJリーグはどうしていくべきか? という対策や方向性を示すことが求められるはずだ。

 例えば、大迫勇也(ヴィッセル神戸)、酒井宏樹(浦和レッズ)、過去であれば内田篤人(元鹿島アントラーズ)といった30代のタレントが欧州から復帰する場合、なんとなく日本で骨を埋めてくれるという風潮がある。

 もしも「秋春制」に移行しヨーロッパと同時期の移籍マーケットが組まれれば、こうした力のある選手が再び欧州に向かうチャンスが増える。内田篤人がシャルケ04からウニオン・ベルリンに移籍したように、欧州の体制交代を経て、既知の指導者(強化責任者などスタッフ、監督、コーチ…)から請われることは容易に考えられる。

 そもそも欧州・中東と同じマーケット期間にすることで、Jリーグに有力タレントが来る、と本音で思っている人がどれだけいるのだろうか。ブラジルや北欧、アフリカの一部と同じマーケット期間である現在のメリットも勘案したい。

 またJリーグは様々なデータを用いて、夏場の選手の運動量やインテンシティが落ちることを強調。そのデータを一つの要素に示し、秋春制を推進している。

 そこも突っ込みどころで、雨が降り、風が吹き、暑い日も、寒い日もあり、そういった様々なコンディションのなか「年間チャンピオン」を決めるのがリーグ戦の醍醐味ではないだろうか。

 現在最も問題視されているのは夏場の昼間のスポーツについてだ。ナイトゲームも過酷だが、“稼ぎ時”の夏休みの開催がなくなる経営面への影響も大きい。分科会のマーケティング部門からの報告が注目される。選手のパフォーマンス以上に、夏場の試合では、そこに集う観客の健康や生命にも関わる問題だ、という指摘であれば、より説得力があるようにも感じる。

 そのように「天気・気候」を問題にするのであれば、「6月閉幕」が本当に理想なのかも首を捻る。梅雨に向かう5-6月、シーズンのクライマックスに突入していく日程だ。プレーオフなど重要なカードもそこで行われる。雷雨の増える時期でもある。

 そこで野々村芳和チェアマンが強調する「最高の作品」を見せられるのか。

 どうしてもチェアマンが強調している、その作品を一緒に作るサポーターであり観客置き去りの議論になっている印象を受けてしまうのだ。6月閉幕にするのであれば、日本での屋根のほぼないスタジアムの多さも重要な課題になるだろう(ドイツ・ブンデスリーガのように『屋根100パーセント』であれば説得力もあるが)。

 Jリーグは最速で「2026-27シーズン」の以降を仮に設定している。ただ「秋春制」にする「魅力」があまり伝わってこない。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)の「秋春制」に伴い、アジアサッカー連盟(AFC)からの圧力もあり今のうちに日本も移行したい――というのが本音であれば、そういった見解を示したほうが説得力もありそうだが。

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 Jリーグに勢いのあった前回シーズン移行が頓挫した2017年のタイミングで、こうした深い議論ができていれば……とは感じる。アンドレス・イニエスタが去り、パッと頭に浮かぶタレントは限られ、Jリーグへの世間の関心はそこまで高いと言えない。サウジアラビアなど中東、そしてワールドカップ開催を控えた北中米で過去最大のサッカー熱が高まるこのタイミングでの「秋春制」以降は、日本サッカー全体で見れば、選手のレベルアップ(さまざまな選手が海外へ移籍しやすくなる)につながるかもしれない。ただJリーグへの関心が、より低下する危機も覚える。

Posted by 塚越始

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