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【2023総括と展望】鹿島は「王道」を突き進め!

鹿島の鈴木優磨。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

現状否定の先、目指している「何か」をいまだ共有できず。むしろこの2年間の試行錯誤で見えたのは――。

 鹿島アントラーズは2023シーズン、無冠に終わった。2018年のAFCアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)制覇から、5年間タイトルを獲得できずにいる。

 その「苦悩」を紐解くと、誰もが何かしらの変化が必要だと問題意識を持っているものの、その解決策や目指している先の具体性を共有できずにいるところに辿り着く。もちろん「タイトル=勝利」が最終目標であり、そのために変革しなければという意識はある。ただし、それが一体何なのかが、誰にも分からない。現状否定の先の共有するビジョンを描けていなかった。そんな印象だ。

 岩政大樹監督はこのクラブを変えなければいけないと強調してきた。そして複数のシステムにトライし、「自分たちのスタイル」の構築に取り組んできた。

 しかし何を否定し、その先に何を目指しているのかがなかなか伝わってこなかった。横浜F・マリノスや川崎フロンターレが複数年かけてスタイルを構築してきたことを、岩政監督は例に挙げてきたが、では鹿島が新しい何を目指しているのか。

 指揮官からは「選手たちは理解してくれている」というニュアンスの発言が目立ち、それは皆さんは分からないかもしれないが……といった意味合いにも受け取れた。ただ、例えば1年目は低迷したアンジェ・ポステコグルー監督時代の横浜FMだが、当初から狙いも明確なサッカーを展開し、マリノスサポーターをはじめ観る者の心を掴んでいった。「え、そこまでやるの、という戸惑いが最初だけはあった」と日本代表にも選ばれた天野純は語っていたが、そこを乗り越えた先、選手たちに迷いはなく、リーグ制覇へと突き抜けていった。

 一方、鹿島はこの2年間(あるいはザーゴ時代から)、クラブ全体として、このままではいけない、という認識があるのは伝わってきた。が、では、どうしたいのか? その理想像の共有が見られないままだ。

 それでも今シーズンの夏場、鹿島が安定した強さを見せた時期があった。変則的4-3-3などのトライを経て、垣田裕暉が前線に入る4-4-2がハマり、快進撃を続けた。岩政監督が浸透させてきた守備のいくつかの決まり事も明確だったのだろう。4バックをはじめ球際に迫力があり、選手に迷いは見られなかった。いろいろなトライが、こうしてハマるのだと思わされた。

 しかし、岩政監督のなかでは、その伝統的かつオーソドックスな4-4-2だけでは勝てない歴史があったからこそ、先へ進むための新たな闘い方が必要だという考えがあったように見える。再びいろいろな新たな要素を加えようと試みていった。しかし最近はリーグ6試合勝利なし。複数の戦い方にも挑戦したが、攻撃の形をなかなか作れなかった。

 指揮官はシステムは関係ないと何度も強調していた。それでも4-4-2が機能し、4-2-3-1になると正直目も当てられないほど他チームとの練度の差はむしろ開いていった。印象的なのが優勝したヴィッセル神戸との10月21日の国立競技場での一戦だ(●1-3)。

 ピッチ上では、選手たちがプレスをかけるための立ち位置について、ここから下がらずに行こうというようなことを確認し合っていた。岩政政権での悪い時に起きる、選手たちが明らかに「迷い」をもってプレーしている状態に陥っていた。神戸と戦う以前に、自分たちの中で混乱をきたしていて、その解消を指揮官もできなかった。

 鹿島は王道を突き進むべきだ。

 自陣からのビルドアップのスタイルにこだわるチームが増えつつある(それも決して「新しく」はなくなりつつあるが……)。そうしたなか、鈴木&垣田の2トップは明らかにJリーグではトップクラスの脅威を与えていた。その最前線からエネルギッシュに襲い掛かる前輪駆動と言える態勢になった鹿島に、他チームは警戒を強めていた。

 この数年間のトライは、むしろ、その道を示すための行程だったのではないだろうか。

 シンプルにタレントの力を全面に押し出して闘う。それが基本的には鹿島の歴史であり、それを否定する必要はない気がした。

 いやいや、それが簡単にできないし、それだけでは限界だから、どうしようかという話をしているのだ。という押し問答が続いている気がする。本当にそうなのだろうか? Jリーグ最多のタイトルを獲得してきた特長と武器を生かす。大きな流れを変える必要はない気がした。

 もちろん、近年の活躍した若手選手がヨーロッパへすぐ移籍していくサイクルはおそらく当分変わらない。タレント頼みではなくスタイルの構築が重要だという主張も全うだ。有望な若手を獲得してきたのが鹿島の強みであり、そのメリットを最大限には生かせない時代にもなりつつある。

 また、2022シーズンのクラブ売上高61億1600万円は、Jリーグ全体で5位だった。結果的には、その資金力では妥当と言える順位であったのもまた事実であり、受け止めるべき現実だ。

 ヴィッセル神戸が示した一つの戦い方は、日本代表クラスにあるが、基本的にはJリーグで闘う覚悟を固めた選手たちを融合させること(これもシーズン秋春制になったら読めないが……)。例えばワールドカップ出場も狙っていた内田篤人が加わったあと、欧州に向かう前の鈴木優磨も昌子源もいたなか2018年にAFCアジア・チャンピオンズリーグを獲得し、翌年には天皇杯決勝まで進めたのも、それもまた(否定する必要はなく)鹿島の成功例に挙げられる。そこに粋のいい若手が絡むというのは理想像になるだろう。

 指導者や体制……路線も大きな課題ではある。王国ブラジル出身の監督が、グローバルな舞台で活躍できなくなりつつある。そのブラジルが抱える課題が、そのまま鹿島の課題にも直結している。ただ、それも実は昨今の成績がヒントを与えていて、それこそリーグ屈指のタレントである鈴木優磨という特別な存在の力を最大限に引き出せる、国籍ではないカリスマこそ求められている気もする。国籍など関係なく、フランス人のジネディーヌ・ジダンからイタリア人のカルロ・アンチェロッティに引き継いでも、路線の大筋は変わらずタイトルを獲得し王道を歩み続けるレアル・マドリードのように。コーチ陣に適任者を招き入れ、岩政監督がそうした役に徹するのであれば、続投もあっていいのではないだろうか。

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 現状否定は、なんとなく言葉的にも響く。ただ、迷うために迷っているような2年間だったように感じる。いずれにせよその状態では勝ち続けられない。鹿島が貫いてきた、クラブに携わる一人ひとりが優勝のために献身的に一丸となる「闘う集団」になるためには、シンプルで力強くまっすぐなメッセージこそ求められている気がする。

Posted by 塚越始

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