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浦和戦のインプレー「90分中47分」。時代に逆行する町田のロングスロー問題、なぜJリーグ、審判委員会はアウトオブプレーに寛容なのか

黒田剛監督。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

FIFAはアクチュアルプレーイングタイムの時間を増やすために施策を打ち続けるなか。

[J1 29節]町田 2-2 浦和/2024年8月31日18:03/国立競技場

 注目を集めたJ1リーグ29節のFC町田ゼルビアと浦和レッズの国立競技場での一戦は、87分にリードされた町田がラストプレーでエリキのゴールで追い付き、2-2で引き分けた。

 この試合ではタッチライン沿いでの、浦和のコーチと町田のスタッフによる、ロングスロー用にビニール袋に入れてセットされたタオルを巡る攻防まで注目された。

 ボールがタッチラインを割って、プレーが途切れる。日本代表に選出された望月ヘンリー海輝らがその袋からタオルを取り出す。丁寧にボールを拭く。それから助走をつけて、ロングスローを放つ……。

 ルール上は問題ないという見解である。しかし、この日のアクチュアルプレーイングタイムは、『Jスタッツ』が公開しているデータによると、なんと「47分29秒」だった。

 つまり、90分+アディショナルタイムのうち、ピッチでボールが動いていた時間は47分……1試合のうちほぼ半分だ。ほぼ半分の時間は”ピッチ上でゲームが行われていなかった”のだ。

 もちろん暑さや降雨の影響もあった。監督交代劇のあった浦和が予想外にロングボールを多用し、むしろポゼッションを放棄する戦い方を選択。さらに対策を練り、足もとが苦手な望月にあえてボールを持たせるなど、「対町田」に徹底したことも大いに関係しただろう。

 ポゼッションを志向するチームもあれば、町田のようにその相手をクラッシュしてチャンスを作り出すことを狙うチームもある。ポゼッション率の高さや低さは、それこそ嗜好によるものだ。

 ただし、国際サッカー連盟(FIFA)はインプレーの時間をできるだけ伸ばし、ゴール数を増やすため、様々な試行を打ち出し続けてきた。その結果、世界最高峰であるプレミアリーグ、欧州主要リーグのトップクラブ、UEFA欧州チャンピオンズリーグ(CL)に出場するようなクラブは、インプレーの時間にこだわりを見せる。

 ちなみに2023-24シーズンのプレミアリーグの1試合平均のアクチュアリープレーイングタイムは「58分37秒」で平均ゴール数は「3.09」。いずれも過去4シーズンで最長・最多だった。プレミアリーグにもポゼッションを回避するクラブも存在する(※Jリーグは各チームごとの平均のプレータイムをまとめている)。

 町田のスタイルが問題なのではない。セットプレーと同様に、時間をかけて、わざわざ袋からタオルを出し、ボールを念入りに拭いてロングスローを行う――。それはFIFAが打ち出す方針に逆行し、遅延行為にもあたりそうだが、審判団は静観しているのだ。

 そもそも、Jリーグ、JFA審判委員会はアウトオブプレーや、GKの6秒ルールなどに寛容ではないだろうか。それが野々村芳和チェアマンの掲げる「いい作品」になっているのかは、甚だ疑問である。

 繰り返すが町田のロングボールを生かし、肉弾戦でセカンドボールを掴んでゴールを狙うファイトスタイルは、これも一つの戦い方であり、監督や選手、ファンの嗜好に委ねられるところだ。

 とはいえ、できるだけプレー時間を使いたくない……と受け止められるロングスローのために間をとる一連の作業を、「ルール上問題ない」と、どこまでも容認されているのが現状だ。Jリーグは、そんなサッカーと関係ない作業でプレー時間がどんどん削られても、”仕方ない”というスタンスを取り続けるのだろうか。このまま行けば、ならば45分間だけプレーすればいい、というツッコミさえ出てくるだろう。 

 Jリーグはタレントのヨーロッパへの流出が止まらない。おそらく、この人材流出の傾向はさらに強まっていく。そのなかでこうした”ピッチ外”の話題だけが目立っている。

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 ピッチ上でのリーグとしての魅力を打ち出せないと、このまま選手だけでなく、ファンを含め人はどんどん離れていく、そんな未来も懸念される。ルールに規定されていないことは、何をしても許される? この話題は一体、日本のサッカーに内在するどのような問題・課題の表層であり、何を意味しているのだろうか。

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