【天皇杯】浦和×鹿島のスイッチを入れた判断、内田篤人がプレーを止めなかった理由とは?
天皇杯準決勝、フル出場した内田篤人。(C)SAKANOWA
20分、武藤雄樹が倒れたものの続行。“闘い”の色が一段と濃くなる。
[天皇杯 準決勝] 浦和 1-0 鹿島/2018年12月5日/県立カシマサッカースタジアム
浦和対鹿島の一戦はチャンスの数こそ限られたものの、球際での激しい攻防が常に展開され、一瞬のミスが命取りになるスリリングさが伝わってくる好ゲームだった。まさにナイスファイト。リーグ戦最終節から中3日に組まれたが、逆に一発勝負、カップ戦(天皇杯)の準決勝ならではの緊張感が伝わってきた。
今日は闘いだ――。そんなこの試合で、内田篤人のあるプレーが分岐点となり、試合は一段とヒートアップしていった。
20分、攻め込んだ浦和の武藤雄樹が接触プレーで足を傷めてピッチに倒れ込んだ。
しかしボールを奪った鹿島はプレーを続行させる。内田篤人は右サイドから仕掛けてクロスを放ち、シュートまで持ち込んだ。当然、倒れているのに試合を止めなかったことに、浦和の選手たちは納得しない。浦和サポーターからは大きなブーイングが起きた。
ただ、このワンプレーで“闘い”の色が一段と濃くなった。スタジアムにも、これは熱い試合になるな、という空気が伝播した。そのスイッチを入れた選択と言えた。
内田は試合後、その判断について次のように語った。
「今日の審判はけっこう(プレーを)流していた。あれぐらいで俺は良いと思う。判定がどうだったか、ミスかどうなのかというのはまた別で、基本的にあれぐらい流していいと感じている。今年Jリーグに戻ってきて思っていたのは、『倒れた者勝ち』みたいなところがあること。そうではなくて流していいから、やらせてくれたほうがいい」
平日のナイターにもかかわらず両チームのゴール裏は埋まり、1万3000人以上が訪れた。内田はその特別な空気も感じ取っていた。
「観ていて面白かったと思う、みんなバチバチいっていたし。相手にケガ人が出てしまったということはあるけれども、やっている自分たちもそう感じていた。もちろん賛否はあるはずだけれど、レフェリーがプレーを止めないのは続けるべきだと思う」
この試合、浦和は興梠慎三、武藤、青木拓矢、さらに鹿島の鈴木優磨が、いずれも怪我のためベンチに退いた。浦和のオズワルド・オリヴェイラ監督は芝に問題があったのではないかと指摘していた。主審の判断が正しかったはもちろん精査すべき点かもしれない。
ただスコアレスだった段階で、内田はそのように、ある意味、慣れ合いのような雰囲気になることを避けた。いろいろな意見があることを彼は認識している。それでもシャルケ04、ユニオン・ベルリンと8年間戦ってきたブンデスリーガから戻って1年目だからこそ感じ得ることを、内田は発信してきた。今回も一つ、議論の種を蒔いた。
そして試合終了の笛が鳴ると、ラグビーで言うノーサイドとなり、ピッチに座り込んだ内田は立ち上がり、「調子乗り世代」の槙野智章や柏木陽介と話をかわしていた。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI