ノジマステラ相模原の象徴、尾山沙希が引退。皇后杯決勝のラストステージで伝えたこと
皇后杯決勝のあとの表彰式で、尾山(右)が涙を浮かべる。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
6年間貫いた「諦めない」姿勢。引退後は看護師の道に進む。
[皇后杯 決勝]2017年12月25日/日テレ・ベレーザ 3-0 ノジマステラ相模原/ヤンマースタジアム長居
「上げよう!」――尾山沙希の声がピッチに響いた直後、試合終了のホイッスルが鳴る。彼女の現役最後の戦いが終わった。
チーム創設から6年。尾山の存在なくしてノジマステラを語ることはできない。彼女の一挙手一投足はすべてチームのためにあった。初代キャプテンとしてずっと牽引してきたプレーを見ていても、それは伝わってくる。
皇后杯決勝の日テレ・ベレーザ戦、4-1-4-1のインサイドハーフで出場し、チームをまとめた。残り少なくなったアディショナルタイムでも、彼女は変わらず最後まで諦めない姿勢を貫いた。ベレーザのCKを阻止しようと、何度も手を叩き、仲間を鼓舞した。
「集中しよう、集中しよう!」
このときの彼女には3点ビハインドだとか、自身の最後の試合だとか、そんな思いは頭になかったはず。このピンチを凌いで前線へ送る。ゴールを奪おうとする。いつもの尾山だった。
気丈に振る舞っていた尾山も表彰式では涙が溢れ出た。そしてサポーターに挨拶をすると、最後は笑顔でピッチをあとにした。
「最高の舞台を用意してくれたみんなに本当に感謝しています」
そう語る尾山の表情は晴れやかだった。「サッカーやっていれば9割9分くらい大変なことやしんどいことで、嬉しいことや楽しいことは0.1くらい」(尾山)。そして皇后杯決勝のこの日はその「0.1」に彼女は入ったという。
「大きな経験になったと思います」
この大会を最後に、28歳の彼女は引退する。神奈川県3部リーグだった2012年から6年目の今季、目標だったなでしこ1部リーグで戦い、そしてタイトル獲得目前まで迫った。優勝の悲願達成は、後輩たちに託した。
これから彼女は看護師をめざす。その道で躓くことも、迷うこともあるかもしれない。そんなときこそ、ノジマステラでの諦めなかった日々を思い出してもらいたい。そしてノジマステラは、彼女に勇気を届け続けるチームであってほしい。この日の諦めない姿勢が、多くの人を勇気づけたように。
取材・文:早草紀子
text by Noriko HAYAKUSA