×

『VAR前提』のルール改正に苦心…横浜FC対鹿島、疑惑の場面は「ハンド」が妥当。JFA見解を示す

鹿島の町田浩樹。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

主審の裁量の部分ではあるが…。扇谷氏が解説、「VARがあるための改正というところが強い」。

 日本サッカー協会(JFA)のレフェリーブリーフィングが9月3日、オンラインで行われた。JFA審判委員会の扇谷健司トップレフェリーグループマネジャーが新型コロナウイルスの影響による中断明けのJリーグの公式戦の中で、2020-21シーズンの新ルールを巡る判定の疑問や指摘のあった具体的な場面を取り上げ、審判委員会の見解を示した。

 その中で、ファンの間でも話題を集めた横浜FC対鹿島アントラーズ戦、24分のゴールシーンについて、その前に起きた事象が「ハンド」のファウルの対象かどうか、詳しく説明があった。

 横浜FCが鹿島ゴール前に攻め込み、ペナルティエリア内の左サイドを打開。マイナスに折り返したボールが混戦となり、鹿島DF町田浩樹に当たって跳ね上がる。

 するとゴール前に詰めていた一美和成の後方に投げ出した左腕にボールが当たって、横浜FCボールになる。そこから一旦、町田と競り合いになったが、ゴール前に駆け込んだFW皆川佑介が押し込み、横浜FCのゴールに。得点の判定は覆らなかった。

 町田も手を挙げてセルフジャッジをしてしまったところもあったが……。新ルールでは、DFがハンドのファウルだと認識してもおかしくはないシーンだったとも言えた。

 2020-21シーズン、攻撃者は偶発的であっても腕や手にボールが当たった“直後”にゴールが決まった場合(ボールが手に当たった“直後”にゴールにつながる利益を得た場合)、ハンドのファウルになる、と規定された。

 しかし、その“直後”という部分が、具体的に時間・距離を提示されているわけではなく曖昧さを残すため、主審の裁量に委ねられる『グレーゾーン』になっている。つまり、“直後=時間・距離”は、人(主審)によって感覚で異なる部分になるということだ。

 従って今回のケースも、審判の裁量に委ねられている場面であり、判定は尊重されるべきでもあるとも説明があった。

 ただ、VTRで改めて確認し、さらに審判から説明を受けたうえでJFA審判委員会が検討した結果、「ハンドのファウルが妥当」という考えを示した。

「『直後』かどうかについて、ハンドが起こってからゴールまでボールが動く距離も短い。ハンドのあと、二人の選手が関わっているものの、ゴールまでの時間も短いため、『直後』と考えることができる」

 従って、JFAは「ハンドの反則で、鹿島の直接フリーキックによる再開」が、正しい判定だったと見解を示している。

 扇谷氏は最近のFIBA(国際サッカー評議会=サッカーのルール・規則・規定など重要事項を決定するFIFA管轄の組織)のルール改正について、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)があることを前提にしたもの、VARに対応するためのものが少なからずあると説明した。

「こうした偶発的なハンドをどのように見るかは、どちらかというと、VARがあるための改正というところも強いです。手に当たったボールが、しかもゴールに近く、得点になってしまうことは、サッカーでは、なかなか受け入れられないものではないかと思います」

 VARがシーズン再開後に不採用となったJリーグでは、審判泣かせの状況になっていると言える。

 では、どのように主審は対応すれば良かったか。扇谷氏は次のように審判の心理や状況を具体的に説明し、新ルールに対応した意識の変化の重要さを説いた。

「レフェリーにとって、この改正は難しいものです。この場面では、まずレフェリーはDF(町田ら)のハンドがないかどうかを見に行きます。なかなか次のFWの選手(一美)に意識を向けるのは難しい。DFの手に当たれば『PK』の決断を下さなければいけません。レフェリーはそうしたものを中心に、ペナルティエリア内のジャッジをしてきました。しかもゴールに近くなればなるほど、どうしてもDFのハンド、PK、(接触など)ファウル、そういったところにフォーカスするのが審判員の習性と言えます。その意識を大きく変えていかなければいけないものなのかなと痛感しています」

 ただ行き着くところでは、サッカーの原点であり本質でもある「手を使わない」という大前提に立つと、このシーンはハンドのファウルが“妥当”だろうということだった。DAZNで配信される「Jリーグジャッジリプレイ」で出された見解と異なるのもまた興味深いが、JFA審判委員会は“本来ノーゴールにすべきだった”という考えを提示した。

注目記事:日本代表MF柴崎岳がレガネスに電撃移籍!3年契約、間もなく発表へ

[取材・文:塚越始]

Ads

Ads