【マイナビ仙台】「ベガルタ」ホームラストゲームで生まれた「1点は1点、でも100点満点」のゴール。浦和に1-2惜敗
マイナビの有町紗央里が決めた!写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
仙台の歴史をつないだ有町紗央里の最後のスーパーミドル。
[なでしこ 17節] マイナビ 1-2 浦和L /2020年11月14日/ユアテックスタジアム
なでしこリーグ優勝を決めた浦和レッズレディースとマイナビベガルタ仙台レディースの一戦、浦和は塩越柚歩のゴールで9分に先制する。しかし早い時間帯に失点して勢いを削がれたマイナビだが、すぐ前を向く。この段階で肩を落とすわけにはいかなかった。
この日はマイナビにとって、ホーム最終戦だった。東日本大震災後、活動休止していた東京電力女子サッカー部マリーゼを引き継ぐ形で誕生したベガルタ仙台レディースだが、今シーズンで“ベガルタ”が撤退することが決まった。来季のWEリーグには、「マイナビ仙台レディース」として挑む。そしてこのホーム最終戦はベガルタの聖地・ユアテックスタジアムで、ベガルタゴールドのホームユニフォームを纏って戦う最後の機会だった。
それ以上に選手たちを奮い立たせたのは二人の存在があった。ホーム最終戦を前に、チームを牽引してきた小野瞳と有町紗央里が今シーズン限りで引退することが発表された。ともに32歳。苦楽を共にしてきた戦友同士が時を同じくしてスパイクを脱ぐ決断をした。ベンチに控えるこの二人を前に中途半端なプレーなどできない。
1点ビハインド、残り15分を切ったところで辛島啓珠監督は二人を同時にピッチに送り出す。交代を待つ小野はそっと有町の背中に手を添えた。
「もうすでに紗央里(有町)が泣きそうで(笑)。落ち着かせるというか、頑張ろう! そして楽しもうねって話をしてました」(小野)
しかしピッチに入る直前、高橋はなのゴールで浦和に追加点を奪われてしまう。
このままでは終われない。小野、有町のプレーに触発されるように選手たちは必死にボールを追いかけた。そして88分、まさに全てをつないだゴールが生まれる。
ボールを持った坂井優紀は迷うことなく前線へパスを放つ。このボールを有町は「シュートを打ってくださいというボールだった」とオフサイドをかいくぐり左足を振り抜いた。
「前半から(スタメンで出た)選手たちが走り回ってくれたからディフェンスに穴が空いたと思うし、みんなの頑張りと日々の積み重ねた結果。そういったボールを最後に自分が決めることができて本当にみんなに感謝してます」(有町)
有町のガッツポーズは力強く、魂がこもっていた。
アシストした坂井もU-20世代からの同士だ。坂井にしがみついて感謝を示した有町は最後に小野のもとへ行き、静かに喜びを分かち合った。そしてスタンドはこの日一番の盛り上がりを見せた。
試合は1-2で惜敗したが、最後までマイナビのサッカーで浦和に挑戦し続けた90分間だった。
小野はマリーゼに入団した直後に活動休止となり、その後ベガルタ仙台レディースとともに9年間歩んできた。小野の歴史はマイナビベガルタ仙台レディースの歴史でもある。
このチームを見れば、彼女がどのようにチームメイトに接し、悩み、乗り越え、成長してきたかが分かる。大学卒業後は一貫して地元・宮城に捧げたサッカー人生だった。
ボールの芯を捉えるすさまじい音に思わず振り向くと、それが有町の放ったシュートの音だったことがある。当時まだ19歳。若き有町の第一印象は「重そうなシュートを打つ選手」だった。
どんなに叱責されても貪欲に、愚直なまでにまっすぐにサッカーを向き合っている姿が記憶にある。今日のゴールは当時の印象と変わらないものだった。
今日のプレーに得点をつけるとしたら?問われた有町は、「こぼれ球でも、すごいミドルシュートでも1点は1点だけれど、100点です(笑)!」
泥臭く、懸命にゴールを目指し続けた有町らしい100点満点の答えだった。
二人の引退発表は、当たり前だった彼女たちとの時間が有限であることを示している。この後は皇后杯を控える。彼女たちが残される者に何を託すのか。そしてそれをチームメイトはどう受け止めていくのか。皇后杯を勝ち進めば再びユアテックスタジアムに立つチャンスもある。このメンバーだからこそできる戦いを最後まで存分に見せてほしい。
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[取材・文・写真:早草紀子]