【清水】吉本一謙が引退会見「エスパルスで絶対ACLに出たかった」。14年のプロ生活、最も印象に残るFC東京での“あの失点”
オンラインによる引退記者会見を行った清水の吉本一謙。協力:清水エスパルス
清水のホープたちへ、本気で優勝を目指す集団に――。「このチームで優勝したいと、どれだけの人が思えるかでチームの強さが決まると思います」
J1リーグ清水エスパルスのDF吉本一謙が12月10日、オンラインによる引退記者会見を行い、現役生活14年間、そして清水での1年半を振り返ってファン・サポーターに感謝の気持ちを伝えた。
相手に常に全力で立ち向かっていくスタイルを貫いてきた吉本は、実に10度の手術を乗り越えてきた。そして円熟味も増し、実戦復帰も近づいているのではないか……そう思われるなか、スパイクを脱ぐ決断を下した。
32歳になった吉本はその理由を語る。
「チームのメディカルスタッフを含め、本当に助けていただきました。ただ(清水に来てからの三度の手術を経て)復帰してからちょっとした切り替えだったり、潰さなければいけないところだったり、分かっているのに行けず、それが直接失点につながるわけではないのですが、歯がゆさを感じていました」
年齢的にも何かを伝道していく立場でもある。ただ、まず自分がピッチで示せなければ――と心の揺れ動きがあった。
「そういったことを踏まえ、何か伝えていきたい気持ちと自分がしっかりやらなければいけないこととの葛藤があり、やり切れていていないと思いました。そこが決めた一番の決断のところになりました」
プロキャリアは14年、その中での一番の思い出を、吉本は振り返る。
「本当の一番の思い出は、これから先にあると思いたいです(笑)。選手生活の中では、ターニングポイントになる試合がたくさんありました。エスパルスに移籍してきた1試合目(2019年8月1日J1リーグ21節/横浜F・マリノス戦/〇1-0)もそうでした。『ここで結果を出さなければ』と思ってピッチに立ちました。
また、自分の中で特に印象に残っているのは、FC東京でACLのベスト16に進み、勝てばベスト8の歴史を作れた一戦です(2016年5月24日/ACL決勝トーナメント1回戦-2ndレグ/上海上港戦/●0-1 ※2戦トータル△2-2アウェーゴールで敗退)。
アディショナルタイム(90+1分)に失点を喫して、次に進めませんでした。本当に悔しくって、だからこのチームに来て、エスパルスで絶対にACLに出たいと思っていました。ACLの最後、あの場面が印象に残っています」
ただ、吉本はキャリアのラストを清水で迎えられたことに胸を張った。
「このチームに来られて感謝しています。エスパルスで引退できて幸せです。たくさんの方が温かく迎え入れてくれて、僕の人生においてのいい決断ができました。もちろん納得した結果を残すという以前に、ピッチで力になれませんでした。それは本当に応援してくれる方、獲得してくれたチームに申し訳なくて思い心残りです。ただケガをしているなか、しっかりチームに対してやれることは、しっかりやってきたつもりで、自分のしてきた行動や言動への後悔は一つもありません」
そして清水のホープたちへ。本気でJ1優勝を目指す、そういう集団になってほしいと呼び掛けた。
「このチームで優勝したいと、どれだけの人が思えるかでチームの強さが決まると思います。エスパルスで優勝したい。特に下部組織出身の選手は強く思っているはずです。僕は外から来て、そう思っている選手たちと一緒に、このチームで上へ行きたいと思ってやってきました。特に下部組織を中心に、エスパルスを背負い、エスパルスで優勝したいという選手を増やしていってくれるような、選手やサポーターが集まって来てほしいと思います」
そういえば2007年の小平で行われたFC東京での新体制発表会見でも、吉本は大きな笑顔を浮かべていた。それから13年、想像を絶するような苦悩を重ねて大人になったファイターは、しかし誰もを魅了する不変の笑顔でオンラインによる引退会見を締めくくった。
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[取材・文:塚越始]