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【なでしこアジア女王への軌跡➀】募る危機感…「個」は成長しているのか?

アジアカップ連覇を成し遂げたなでしこジャパン。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

アジア5位になることさえ、一筋縄ではいかないという不安を抱えて。

 なでしこジャパン(日本女子代表)がAFC女子アジアカップで2連覇を果たした。ただ、選手たちにとって、“2連覇”よりも“初タイトル”という自信が一番の収穫となった。

 世の中に強烈な印象を残した2011年のFIFA女子ワールドカップ・ドイツ大会優勝。そのときのメンバーは宮内聡監督時代の1997年に改革的とも言える世代交代をして以降、少しずつ顔触れを変えながら、基本となる澤穂希ら世代を中心に10数年に渡ってつないできたチームだった。

 高倉麻子監督は宮内監督以来の大幅な世代交代に着手した。阪口夢穂(ベレーザ)に10番を託し、世界一を知るメンバーは極力絞り込み、自ら育ててきたユース世代の若い力も積極的に引き上げた。現段階では”最強”の選手ではないかもしれないが、2020年の東京オリンピックを見越した“伸びしろ”を重視した。育成、ユース世代を指導していた頃から独特の選出眼を持つ高倉監督は就任から2年間、なでしこジャパンでも、なでしこリーグ、大学、高校と、気になる人材をできるだけ招集して底上げにも努めた。

 高倉監督は当初から「メンバーは固定しない」と宣言し、精力的に対外試合を組んで個々を成長させようと試みた。一戦ごとにメンバーを入れ変え、個々の能力を確かめるとともに成長を促した。

 前体制から継続して招集された国際経験の豊富な阪口、鮫島彩(INAC神戸)、熊谷紗季(リヨン)らよりも、若手のほうが高倉監督のことを知っている。そのためベテランの選手たちも自分たちの“色”をどのように出すべきか、むしろ慎重にまず見えていたようだった。

 そのベテラン組はプレーでは圧倒的な存在感を放つものの温厚派揃い。よく言えば包容力があり、悪く言えば強力なリーダーシップに欠ける。「最弱のベテラン(笑)」との高倉監督の叱咤するような表現にも頷いてしまうほどだ。

 確かに狙い通り、若手は伸び伸びとプレーしながら、競争に加わってきた。しかし、“アンダー世代の壁”を乗り越えて、トップレベルでも対応できた選手は予想よりもかなり限られた。“個”のレベルアップを重視して試合ごとにメンバーを代えることは、伸びしろのある未知数の選手には効果があったが、結果は伴わなかった。

 E-1東アジア選手権での北朝鮮戦の完敗(スコアは0-2)、アルガルベカップ初戦でのオランダ戦の衝撃の大敗(スコアは2-6)など、重要な試合での敗戦によりチーム力が本当についてきているのか実感を得るのも難しくなった。

 メンバーを固定しない信念を貫いていた指揮官がただ一度だけ確認するようにメディアに問うたことがある。6失点したオランダ戦のあとだ。

「私たちは(このチームが)少しずつ成長してきていると思っているのですが、(外からは)どう映っていますか?」

 大敗後、立ち上がったベテラン選手が自主ミーティングを開いて、徹底的に話し合った。アルガルベカップはその後のグループステージで連勝し、順位決定戦でカナダに0-2で敗れて6位に。敗戦の中から選手たちも多くを学び取り、選手自身となでしこジャパンが置かれた世界のポジションを認識していった。確かな手応えと言うにはまだ及ばないまでも、明らかにこのアルガルベカップが転換期となったことは間違いない。

 高倉監督ができる限り個の成長に時間を費やしたのは、「型を決めてチーム力を上げるのはいつでもできる」と踏んでいたから。一方、2016年4月の就任から2年懸けて取り組んできた成果を見せるタイミングも探っていた。それが、このFIFA女子ワールドカップ・フランス大会の最終予選を兼ねたアジアカップだった。

 アジアカップでもコンディションや対戦相手に応じて登録メンバーをフルに活用する起用法を、高倉監督は貫いた。一方、熊谷紗季、阪口夢穂、長谷川唯、岩渕真奈ら中心選手は固定しながら、これまでの「個」の成長の真価を、チームとしてアジア最高峰の戦いでぶつけた。

 なでしこジャパンがアジアを制したのは、前回4年前の大会が初めてだった。当時から大幅にメンバーは入れ替わり、選手たちに優勝候補だという自負はない。むしろグループステージにはオーストラリア、中国、ベトナム、いずれも力のあるチーム(ベトナムでさえ足をすくわれかねい)と同居し、5位になってワールドカップ切符を掴むことさえ一筋縄ではいかないのでは……という危機感さえあった。

 それほどアジアカップ開幕段階でのなでしこジャパンは自信を持てずにいた。自信を掴むには、一つずつ勝つしかなかった。

取材・文:早草紀子
text by Noriko HAYAKUSA

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