【検証パス回し】決して「他力」ではない。「270分」トータルで競うのがグループリーグだ
ポーランド戦W杯初出場した武藤だが、ノーゴールに終わった。写真:新井賢一/(C)Kenichi ARAI
二兎を追った先発6人入れ替えのほうが大博打だった。
[ロシアW杯 グループH] 日本 0–1 ポーランド/2018年6月28日/ヴォルゴグラード
日本代表のポーランド戦でのラスト10分間のパス回しが物議を醸している。ただ確率論的な戦略からすると、極めて妥当だったと言える。
「本意ではなかったが、勝ち上げるための戦略。成長していくなかでの選択の一つになっていくと思う」
西野朗監督は試合後、そのように語った。また長谷部誠も「見ている人はもどかしい想いをしたと思うが、これが勝負の世界」と理解を求めた。
コンディションを加味して指揮官は先発6人を入れ替えた。むしろ残り10分間のパス回しよりも、この人選のほうが大博打だったと言える。
コロンビア、セネガルとの激闘による主力選手の消耗は相当だったに違いない。そんな彼らより、今回先発した11人のコンディションが良いと西野監督は判断した。
ある意味、腹をくくった。加えて、このポーランド戦を突破できれば、再び中3日(あるいは4日)で、決勝トーナメント1回戦が控えている。指揮官としては、”グループリーグも突破したい”し、”最良な状態で「ベスト8」を懸けた一戦にも臨みたい”。そんな二兎を追ったスタメン起用だった。
ところが案の定、西野体制初となる顔触れの11人は機能しなかった。それでもポーランドの拙攻にも助けられ、前半はスコアレスで折り返す。もしかするとドローで乗り切れるかも、ワンチャンスをものにできるかも……と淡い期待も抱かせた。が、59分、ポーランにが先制点を奪われてしまい、状況は一変した。
失点の仕方も悪く、またもセットプレー。しかも、なぜかノーマークで決められてしまった。この日の日本の意思疎通が乱れている表われだった。
もう一方のカードのコロンビア対セネガルが引き分け、日本がポーランドに負けると、勝点差で日本のグループリーグ敗退が決まる。そのとき、コロンビアとセネガルはスコアレス。日本はどん底に叩き落されたのだ。
すると74分、コロンビアがセネガルに先制したという吉報が舞い込む。ベンチが状況を整理し、日本は負けても、フェアプレーポイントの差で、現状のままキープすれば決勝トーナメントに進めると把握する。再び日本に流れが来たのである。
ただしピッチにいる選手たちは、フェアプレーポイントが現状で、どれほどの差があるかまでは把握できていなかっただろう。そこで82分に長谷部が投入されて、「イエローカードをもらうな」と指示を出す。これで、ピッチに立つ11人全員がこのままいけばOKという意思を共有できた。これが指揮官と長谷部の言う「戦略」だった。この一手には、唸らされた。
セネガルがポーランドに同点に追い付いたらどうしたんだ、というのは結果論に過ぎない。
チームの目的を「決勝トーナメントに進出する」の一点に絞った。そのうえで、➀勢いづいたポーランドに2失点目を喫する②万が一、レッドカードをもらうか、イエローカードを2枚もらう――そういったリスクを鑑み、「0-1でOK」という判断で意思統一したまでだ。これもまた、絶望の淵から掴んだワンチャンスだった。
グループリーグは3試合(1試合90分)トータル「270分」の成績で決まるもの。得失点差、得点、失点……すべて並んだ場合、以前であれば抽選だったが、そこにフェアプレーポイント(反則ポイント)が加味されることになった。すべてはルールに則ったもの。「コロンビア勝利」という「他力」に全ての運命を委ねたわけではない。270分の最後10分間、日本はポーランドに負けても決勝トーナメントに進める「権利」を自力で手にしたのだ。
最後は「勝負事の世界」で、4チーム中2位に入るための確率が極めて高いほうに賭けた――現実的な選択をしたまで。いやいや、それでも当たって砕けても攻めるべきだ、というのは、身の程知らずでしかない。
結果的に、二兎を追った西野監督のスタメン大幅入れ替えによる、「あわよくば引き分けor勝利」は叶わなかった。しかし、「決勝トーナメントに最良の形で臨む」という一兎は掴んだ。やはり、そこまでワールドカップは甘くなかった。
ポーランド戦後、川島永嗣も、長友佑都も、「まだ誰も成し得てたことのないベスト8に向けて、これまで以上の準備をしたい」と声を揃え、気を引き締めていた。とても良い表情だった。
彼らは決勝トーナメント進出に安堵しているが、満足はしていない。もう一度、これまで以上に気持ちを奮い立たせるようとしている。それは過去にない日本代表の姿だ。
香川真司、昌子源、原口元気、途中出場ではあったが大迫勇也、乾貴士……おそらくグループステージ第2戦・セネガル戦以上のコンディションで、7月3日(午前3時開始)のベスト16・ベルギー戦に臨める。むしろ、楽しみではないだろうか。
文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI