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【PHOTO STORY】W杯優勝メンバー 世界一のSB近賀ゆかり、17日に現役ラストマッチへ。引退セレモニーのサプライズ演出で、“近ちゃん”に戻った束の間の瞬間

写真:早草紀子(C)Noriko HAYAKUSA

「人に恵まれたサッカー人生でした」と、近賀は胸を張って言った。一方、彼女と触れ合ってきた人たちは――。

 2011年のドイツ女子ワールドカップ(女子W杯)優勝メンバーの一人であるWEリーグ サンフレッチェ広島レジーナのDF近賀ゆかりが5月4日、エディオンピースウイング広島でのノジマステラ神奈川相模原とのホーム最終戦で引退セレモニーに臨んだ。1万1879人のサポーターの声援と拍手に、現役時代ずっと変わらなかった爽やかな笑顔で応え、そしてサプライズ演出には思わず涙を浮かべた。

写真:早草紀子(C)Noriko HAYAKUSA

 昨年10月に左ヒザの前十字靭帯を損傷した。ただ39歳になった近賀は懸命にリハビリに取り組み、戦力として計算される状態にまで仕上げてきた。あくまでも目標は“復帰”ではなく“復活”だった。

写真:早草紀子(C)Noriko HAYAKUSA
写真:早草紀子(C)Noriko HAYAKUSA

 トップ下で先発した近賀は「100のうちの10しか出せなかった」と言うものの随所で彼女らしさを発揮して56分で交代。本来の主将である左山桃子の左腕に「あとは頼んだ」と、キャプテンマークを託した。ピッチを出る時にはノジマステラ相模原の選手、審判団も加わり花道が作られた。

写真:早草紀子(C)Noriko HAYAKUSA

「テレビで観る光景だと思いました。こうやって引退を迎えられた選手はそんなにいないはずです。本当に感謝しています」

 引退セレモニーでは、常に笑顔を浮かべていた。その近賀の目に涙が溢れ出たのは、2011年ワールドカップ優勝メンバーである澤穂希さん、阪口夢穂さん、岩渕真奈さん、佐々木則夫元監督ら『世界一』の同僚がサプライズで登場した時だった。

写真:早草紀子(C)Noriko HAYAKUSA

 広島を牽引してきた“近さん”から、束の間、レジェンドたちに引き上げられてきた“近ちゃん”に戻った瞬間だった。

 広島ではチームの顔として振る舞い戦ってきた。ただ、ここまでのキャリアのベースにあるのは、澤さんをはじめ先輩たちを、右サイドバックのポジションで必死にサポートし、とにかくガムシャラに食らい付いていった、当時の日々だった。

写真:早草紀子(C)Noriko HAYAKUSA

 広島でも彼女の根幹にある、そのひたむきさは変わらなかった。練習が終わると、ボールを扱う選手たちの自主トレの邪魔にならないにと、ピッチの一番奥のスペースでダッシュを繰り返す姿があった。広島のようにチームの先頭に立っても、20代の頃のように無我夢中で駆け続けていても、想像を絶する自制と努力の毎日があった。それをできるのが近賀だった。

 選手たちがサプライズで作成した手作り映像は、リーグやチーム主導とは異なる、近賀を慕う選手たちが自ら行動し実現した内容で、とても温かみが伝わってくるハートフルなものだった。近賀の人柄の良さが手に取るように伝わってきた。

「人に恵まれたサッカー人生でした」

 近賀はそう胸を張って言った。

 一方、彼女と触れ合ってきた人たちはこう思っている。

「近ちゃんとプレーできて幸せだった」

写真:早草紀子(C)Noriko HAYAKUSA

 近賀ゆかりは、人を惹きつける純粋さと挑戦、チームの勝利のために汗をかくことを厭わぬ泥臭さを兼ね備えたフットボーラーだ。

 現役生活はあと1試合。叶うならば苦楽が沁みついた“世界一のサイドバック”近賀のプレーを見たいが……。5月17日のアルビレックス新潟レディース戦、彼女自身が復活を実感できるプレーを見せ、広島の勝利をもたらす瞬間を願いたい。

写真・文/早草紀子 
Photos and text by Noriko HAYAKUSA
※PHOTOギャラリー続きます

写真:早草紀子(C)Noriko HAYAKUSA

Posted by 早草紀子