引退する平川忠亮を”神”と慕う柏木陽介。俺が腐っていた2011年に…
浦和レッズの柏木陽介。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
心に響いた「今のお前のままでいいのか?」の一言。
[J1 34節] 浦和 3-2 FC東京/2018年12月1日/埼玉スタジアム2002
今季限りで引退する平川忠亮を心から慕ってきた。柏木陽介は冗談なのか、本気なのか、そんな”ヒラさん”のことを神と呼ぶこともあったと言う。
「ヒラさん(平川)がいなければ、今の自分はいない。それぐらい本当にお世話になり、厳しいことも言ってくれたり、馬鹿なこともしたり。特別な中の特別な存在です。まるで神様のような。実際、カミと呼ぶことも結構あります」
柏木が加入した2010年、当初2、3か月ほどそれほど話もしなかったという。無理もない。二人は年齢的に8歳も開いている。
ただ二人で食事をする機会があり、そこで波長が合った。するとピッチ内外で過ごす時間も増えていき、今では「家族ぐるみで旅行にも行く」ほどの仲だという。
柏木がその平川からより強い影響を受けたというのが2011年だった。浦和がシーズン終盤までJ1残留争いをしていたときだ。一時期、柏木がレギュラーから外されもした。
「俺も苦しかった。ただ、ヒラさん(平川)も苦しかったなかで自分に説教をしてくれました。腐っていた自分を、前に向かせてくれた存在でした」
柏木を少し”大人”にさせた存在。それが平川だったという。
「多分……今になって思うと、ヒラさん(平川)自身もそれどころではなかったんだろうなと思います。それでも俺を呼び出して、『今のお前のままでいいのか?』と、いろんなことを話してくれました。もしも、ヒラさんがいなかったら、俺はもっと腐っていたかもしれない」
あらゆる負のパワーに気圧されて降格してしまうのか、それともなにくそと踏ん張るのか。浦和にとって分岐点とも言えたシーズンだった。
それは柏木にとっても、自らを改めて奮い立たせ、より一段と「浦和のために」闘うことを心に誓う重要なときとなった。
それを支えていたのが、浦和とともに時代を歩んできたと言える平川の存在だった。
「俺にとってもその1年が、選手としても、人としても、成長するキッカケを与えてくれた1年になりました。俺が成長させるために声を掛けてくれた、大きな存在です」
34節のFC東京戦。3-2と1点差に詰め寄られて迎えた89分、柏木は平川と交代し、キャプテンマークも託した。柏木は「人としても、選手としても、尊敬して止まなかった。言葉にできないことがたくさんあるので、だから交代の時に感極まってしまったところはあります。あのキャプテンマークをこの試合で渡すのは夢でありましたから」と涙をこぼした。
柏木と平川。これからどのようなつながりを持ち、浦和レッズにどのような効果をもたらしていくのか。指導者と選手になっても、時と場合によっては、浦和について本音で語り合い、それをフィードバックしていける間柄であってもらいたい。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI