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【札幌】駒井善成が語った浦和時代からの「変化」と「進化」

札幌の駒井善成。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

ロマン派ペトロヴィッチ監督も現実的な選択肢を増やし、クラブ史上最高の4位進出を果たす。

 北海道コンサドーレ札幌のMF駒井善成が2019年、札幌の地で2シーズン目を迎える。浦和レッズからの期限付き移籍を経て、今シーズンから完全移籍に切り替えた。昨季は契約によりできなかった古巣・浦和戦への出場も可能になる。札幌対浦和は今季さらに注目のカードの一つになる。

 2018シーズン、駒井は自身のプレーとペトロヴィッチ監督の戦い方の浦和時代からの変化について語ってくれたことがあった。ちょうどチームが上昇気流に乗り、駒井が「どんなチームに対してもしっかりサッカーができる、いい試合ができると、僕たちは自信を持って臨めている」と手応えを得ていた時期だった。

 まず、ペトロヴィッチ監督は浦和時代、基本的にパスによるコンビネーションで崩すスタイルを徹底し、地上戦を貫いていた。しかし札幌ではシーズン当初から、前線のジェイと都倉賢(今季はセレッソ大阪へ移籍)のパワーと高さを生かす戦いも「OK」とした。地上戦も空中戦も使い分ける。若手の運動量がマッチしたことやチャナチィップの適応力の高さなどに加え、その現実路線が上手くハマり、札幌をクラブ史上最高のリーグ4位へと突き上げた。

 駒井は次のようにペトロヴィッチ監督の「変化」について説明していた。

「ミシャ(ペトロヴィッチ監督の愛称)からは苦しい時にはシンプルに前線の強い選手をターゲットに『蹴ってもいい』と言われてきました。だからシンプルにクロスを上げることも増えました。さらに、しっかりブロックを敷いて、ショートカウンターに入ることにも取り組んでいます。そのあたりは浦和と異なるところです」

 駒井が札幌に加入してまず感じたのが、ゴール前の迫力ある守備。最後まで諦めない執念。やはりそれがチームのベースにあると実感した。

「みんながしっかりブロックを敷くという意識が浸透し、ゴール前でやられそうだと察知すれば、スライディングでシュートコースに入り、体を投げ出します。ゴールを守るところは札幌のみんなの良さ。頼もしい限りです」

 ミシャスタイルは状況に応じて5バック、5バック+ボランチと固めることもある。加えてリトリートを怠ることのない運動量のある若い選手も揃い、守備面の約束事は比較的早く浸透していった。

 一方、攻撃面では、当初戸惑う選手も多かったという。マイボールになれば、両ウイングバックがぐっと上がって3トップや5トップの形になる。どちらかのサイドが上がれば、逆サイドは下がって守備をする――という一般的なバランスの取り方はしない。

「みんなも最初は何が正しいのか手探り状態でした。今までのサッカー感が180度変わるようなスタイルです。前に5人いて、本当にこれで守れるのか? 大丈夫かな? って。そう戸惑いながらやっていたと思います。ただ、リーグ戦は最初3節勝てませんでしたが、そこで1つ勝ったことで自信を持てて、思い切って行けるようになりました」

ミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

 そのなかで駒井自身もまた、浦和時代からプレーを変化させていった。

「クロスの意識が変わりました。ボールを持てば前方に加え、中もすぐ見ます。浦和では、まず1対1で仕掛けていくということを考えていました。もちろん、札幌でも1対1で仕掛けますけれど、相手が距離を空けてくれば、クロスを狙ってみたり、抜け切らずにクロスを選択したり、クサビを入れたり、そういうところの感覚を掴めてきています」

 つまり、プレーの幅が広がったと言える。相手チームとしても、チャンスメーカーである駒井を当然潰そうとしてくる。そこで駒井はシンプルなプレーを選ぶことも増やしていったと言う。

「上位との対戦になればマークがきつくなり、1対1の場面も限られてきます。1対1を迎える前にクロスやパスも有効的に出せるのであれば出してしまおうと、その発想を持てるようになったのは変化に挙げられます」

 例えば5月13日の14節・FC東京戦(△0-0)では、早めに二度ほど斜めにクサビのパスを入れて、そこからチャンスが生まれた。

「縦のスペースを切られていました。そうすると中にスペースが空きますので、そこにつけてしまうと。そのあたりは臨機応変にプレーできています。もちろん、ドリブルで抜ける時には抜きたいし、それが僕の特長です。ただ、どうやっても抜けない状況もあり、そういう時には、どこにかして相手のマークをずらして、そこで1本チャンスになるパスやクロスを入れていこうと。そこの質を上げていかないと、いかんなと痛感しています」

 浦和時代はジョーカー的な起用が多く、まず自身の力で流れを打開することを考えてきた。札幌では周囲をより生かしながら、自身も生きることができている。そんな柔軟性が考慮され、ボランチ起用にも応えた。

「考え方や落ち着きが一番(関係している)でしょうか。ゴール前の選手の動きも分かってきて、クロスの質は2017年より上がってきているように自分では感じています(苦笑)。何かを掴めてきていると、言いますか。もっともっと自信を持って臨めるようになっていきたいです」

 加えて札幌は若い選手が多い。

FKも武器の福森は日本代表にも選ばれてほしいタレントだ。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

「勢いのある若い選手が揃っています。どんどん伸びていける、ノビシロのあるチーム。キャリアのピークをこれから迎える選手ばかりです。僕もそうだと思っています。さらに強いチームになっていけます。やりがいをとても感じています。

 ミシャはずっと元気ですよ。相変わらず人を惹きつける監督です。ミシャがいなかったら、ここまで上がれたか分かりませんからね。素晴らしい監督だと思います」

 駒井はそんなことを語っていた。

 彼をはじめ札幌からの日本代表入りも、今季は目指せるはずだ。

 2018シーズン後、都倉がC大阪に電撃移籍してしまった。するとV・ファーレン長崎から昨季J1リーグ11ゴールを決めた鈴木武蔵の獲得に成功した。確かにペトロヴィッチ監督のスタイルに合いそうなスピードとテクニックを兼ね備えたタレントだ。

 果たしてペトロヴィッチ監督は、昨季のような現実路線を踏襲し、臨機応変に勝利を希求するチームを目指していくのか。それとも自分たちでボールを保持して試合をコントロールしてこそ本当の強いチームになれるという理想を追い求めるのか。いずれにせよ、中途半端な戦い方は選ばないだろう。

 そのなかで、駒井も一段と相手に嫌がられるような選手になっていけるか。

「北海道はとても住みやすく、公園も多くて毎日どこかしらへ行っていますよ」と、身も心も札幌の男になった。26歳の駒井が、チームをもう一つ高みへ上げるキーマンになる。

取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI

Posted by 塚越始

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