鹿島から一撃、邦本宜裕のテーピングに「絆」の一文字。泣いて笑ってまた泣いた
決勝点を奪った慶南の邦本宜裕。その右手首のテーピングに「絆」の文字が。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
元浦和ユース、アビスパ福岡でプレーした”問題児”。慶南FCの一員として来日し、アジア王者から決勝ゴール。
[ACL GS4節] 鹿島 0-1 慶南/2019年4月24日/カシマサッカースタジアム
試合終了を告げる主審の笛が鳴ると、体力を使い果たした慶南FCの邦本宜裕はピッチに突っ伏した。駆け寄ったチームメイトに顔を上げると、その目からは涙が溢れた。
昨季のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)覇者の鹿島アントラーズから、日本人アタッカーが敵地で決勝ゴールを奪ってみせた。慶南のチームメイトがそんな泣きじゃくる邦本のことを少しからかいながら頭を撫でたり、抱擁したりする。彼がなぜ韓国でプレーすることになったのか、だいたいのことをみんなは知っている。
邦本はやがて笑顔を浮かべる。
ゴール裏の一角を埋めた数少ない慶南サポーターのもとへ、あいさつに向かう。
「クニモト! おめでとう」「ナイスゴール!」
日本に住んでいる方も多いのだろう。邦本に日本語でのコールも起きた。
サポーターの前であいさつに立った邦本は、「皆さんの応援のお陰で、ゴールを決めることができました。これに満足せず、さらに一生懸命頑張ります」と感謝の言葉を伝えた。
スタンドから温かい拍手が送られると、邦本は顔をしわくちゃにしてもう一度泣いた。
そのように感情の起伏がある、エモーショナルな選手なのだろう。浦和ユースを退団して故郷の北九州に一旦戻り、2015年にアビスパ福岡へ”移籍”。しかしチームの風紀を乱したとして、2017年に契約を解除された。度を越したヤンチャ小僧は、Kリーグで救われて21歳になり、プロフェッショナルのサッカー選手として”支えられている”ことを強く自覚するようになった。
「もうちょっと早く気付かなければいけませんでしたけれど」
邦本はそう当時のことを悔やむ。もちろん、周りの目は厳しい。あと一度でも、当時を想起させるような行動を取れば、この日、改めて動き出した復活へのストーリーも一瞬にして瓦解しかねない。自分自身との闘いもまた重要だ。
とはいえ、日本で行われたACLの舞台で、鹿島から決勝点を奪った。その強心臓っぷりもまた評価したい。恐れ入った。
邦本が慶南のサポーターに勝利の右腕を突き出す。その手首に巻かれたテーピングには一文字「絆」と書かれていた。
ちょっと字が違う? それはご愛敬。心と心がつながり、何かを分かち合えること。それこそがキズナなのだから。
最後は鹿島のサポーターからもエールが飛んだ。邦本はまた笑顔を取り戻していた。
夜から降り出すと予報されていた強い雨がカシマサッカースタジアムに落ちてきたのは、試合が終わり、人いきれが消えたあとだった。
文:サカノワ編集グループ