カレーラス監督解任『鳥栖再建策』を考える。総得点「1」より守備陣こそ課題?
ジョアン・オマリ。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
「相手より勝る部分を出し切る」金明輝新監督のそのスタンスに賭けたい。
J1リーグ最下位に沈むサガン鳥栖が5月5日、ルイス・カレーラス監督の退任を発表した。代わって昨季もシーズン途中からチームを率いてJ1残留に導いた金明輝コーチが新監督に再び昇格した。
1勝1分8敗の最下位で、通算1得点16失点。10試合を終えての総得点「1」は歴代ワースト。16失点は5番目に悪い数字だ。最近は5連敗。6試合連続ノーゴールが続く。
ここまで成績が悪いと、あらゆることが原因で、課題を挙げればきりがない(逆に勝っているチームは、その要因として何を言っても「正解」になる)。
開幕前にカレーラス前監督を取材した限り、クラブとの意思疎通は図れていたように感じた。鳥栖が堅守をベースにしたチームであることをよく理解し、そのうえで自身がスペインで指揮を執ってきた攻撃のアクセントを加える。そのために元バルセロナのイサック・クエンカを獲得した。むしろ、自分が確立してきたものと通底するスタイルが鳥栖にはある、と。
クエンカ、フェルナンド・トーレス、金崎夢生――。さらにチョ・ドンゴンや小野裕二もいる。鳥栖がさらにソリッドな守備をして、状況に応じて前線の「個」の力やアイデアに委ねるサッカーも見せる。そんなイメージは確かに、共有することができた。
しかし、いざ開幕を迎えるとクエンカは間に合わず。それも影響したのか、攻撃の形が一向に見えてこない。
それでもクエンカが磐田戦で決勝点を奪い、ここからだと思われた。続くスコアレスドローの横浜F・マリノス戦は、フェルナンド・トーレスが欠場する。
それが関係したのかどうか、どの選手もボールを持つことを怖がっているように見えた。ボールを持ってプレッシャーを受けると、すぐ手放してしまい(クリアやロングボール、サイドに切るなど)、それを相手に回収される。安全第一とも言えるが、攻撃を放棄しているようでもあった。
その試合は運よく無失点で切り抜けられた。しかしそんな運頼みがJ1では通用しないことを思い知らされるように、その後、泥沼の連敗にハマった。
総得点「1」は確かに深刻だ。一方、そこにつながっていくこととして、守備陣の顔触れが大きく変わったことが挙げられそうだ。守備の不安定さが招いた、総得点「1」とも言える。
日本代表のGK権田修一(→ポルティモネンセ)、左サイドバックの吉田豊(→名古屋グランパス)、レバノン代表DFジョアン・オマリ(→アル・ナスル)、韓国代表キム・ミンヒョク(→全北現代モータース)。新戦力を加えてバージョンアップを図ったはずだったが、昨季のような粘り強さは感じられない。ボールの奪いどころもハッキリせず、やや人任せな感じもある。
もちろん、あまりに権田のスーパーセーブに助けられていたことも浮き彫りになった。ただ、当時から守備強度とビルドアップ力が一段落ちてしまった印象を受ける。それを、それぞれがフォローするために攻撃の迫力を失う、あるいは攻撃まで手が回らないという悪循環に陥ってしまっている。
「(相手より)勝るところをいかに出すかを考えた。しかし、それを出し切るところまで持っていけなかった」
大分トリニータ戦(●0-2)で指揮を執った金新監督は、そのように語っていた。
どこで鳥栖が相手を上回れるか。そこを前面に出す――。
その狙いは、カレーラス体制で欠けていた部分と言える。そこが今後のポイントになる。
ただし、そのためには守備のテコ入れは不可欠か。とりわけゴールキーパーは、J1残留を狙うのであれば、「相手を上回る」武器を持つタレントの補強の必要性を感じる。
惨敗といえる試合はそこまでない。とはいえ、降格するチームは得てして、何となく負け続けてしまうパターンが多い。
前線では、元コロンビア代表FWイバルボが戦列復帰した。トーレスとイバルボ(さらに金崎ら)。勇気を持って、彼らにボールを預けていけるか。そのためにも、勇気ある守備を取り戻したい。