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【久保建英レアル移籍舞台裏】18歳誕生日でフリー「移籍金なし」。FC東京が認めた背景とは?

大分戦が久保建英のFC東京でのラストダンスに。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

突出したタレントであれば今後も増える!?

[南米選手権] 日本 – チリ/2019年6月18日8時(日本時間)/シーセロ・ポンペウ・デ・トレド競技場

 コパ・アメリカ(南米選手権)の日本代表に選ばれたMF久保建英が6月14日、FC東京からスペインの強豪レアル・マドリードに完全移籍することが正式決定した。

 FC東京は6月15日、次のように大金直樹社長の署名で「【ファン・サポーターのみなさまへ】久保建英選手の移籍について」と題して、今回の移籍の経緯について説明があった。

 内容は以下の通り。

「いつも熱いご声援、誠にありがとうございます。

 まずは今回の移籍発表が一部のメディアが先行したこと、公式試合前のタイミングとなってしまったことに関しまして、ファン・サポーターのみなさまにお詫び申し上げます。

 このたび久保建英選手のレアル・マドリードへの完全移籍が決定いたしました。クラブとしては東京で共にシャーレを掲げるために戦って欲しいという強い気持ちはありましたが、このような結果になりました。

 久保選手の成長は今シーズンのここまでのプレーを見てもお分かりの通り、日本を代表する選手となり、これからも大きな可能性を持った選手であります。クラブとしては今以上の成長、そして世界を代表する選手になって日本サッカー界を牽引してくれることを願っております。今後とも久保選手へのご声援もよろしくお願いします」

 そのように前置きしたうえで、次のように契約満了(「移籍金(違約金)ゼロ」)に伴う移籍だったことが明かされている。

「ここで今回の移籍について、ファン・サポーターのみなさまへあらためて経緯等をご報告いたします。

 久保選手は2015年5月にFCバルセロナからFC東京U-15むさしに加入しました。

 その背景には前所属クラブの事情もありましたが、自らの成長のステップとしてFC東京を選択しました。加入する時点から、久保選手の海外でプレーしたいという想いが強く、18歳を迎える時にはもう一度その可能性を確かめるべく、クラブとの契約期間はその日までとなっておりました。

(加入当時はアマチュア、プロ契約は2017年から) そして18歳を迎えた2019年6月、当然FC東京からもオファーを出しましたが、世界でもビッグクラブと言われる複数クラブからも同様にオファーがありました。

 FC東京の今シーズンのチーム状況、自身の成長の実感から、本人はそのまま残留して優勝に貢献したいという想いもあったと聞いております。ただ、最終的にはレアル・マドリードという世界でも屈指のクラブを選択することになりました。 まだまだシーズンは続きます。私たちの『強く、愛されるチームを目指して』の目標は変わりません。

 タイトルの獲得、ファン・サポーターの方々と喜びを分かち合えること、これからも“今年こそ”という想いで、監督以下、選手、スタッフも含めチーム一丸となって戦ってまいります」

 また、このあとのスケジュールによっては、久保からファンへのあいさつの場を設けたいという意向も示された。

「最後に、久保選手よりファン・サポーターのみなさまへご挨拶の機会を作りたいと考えておりますが、今後の久保選手のスケジュールによりますので、決まり次第ご報告いたします。 引き続き熱いご声援のほどよろしくお願いします。

 代表取締役社長 大金直樹」

 FC東京は2018年、2019年と「契約更改選手」として久保のことを発表している。必然的に「2019シーズンいっぱい」の契約を結んでいるものと思っていた。しかし実際は、18歳の誕生日まで、という契約だったというのだ。

 久保が15歳でバルサから復帰した時点で真っ先に、「18歳になればバルサに復帰する」という噂は流れていた。それは各メディアでも報じられていたことだった。

 ただ、それも過去の話。

 しかも今季はJ1の首位を走るFC東京のレギュラー選手になっただけに、移籍交渉などもクラブが窓口になるものだと思われた。

 ところが――。15歳の時点で久保が固めていた”18歳の誕生日で改めて選択をする”という意思は変えずにいたのだ。

 FC東京はそういった条件をすべて飲んだうえで、久保を迎え入れた。さらには昨季約5か月間の横浜F・マリノスへの期限付き移籍も認めた。

 FC東京は2017年に久保とプロ契約を結び、J3でも起用しながら、しっかり大切に育ててきた。そして今季この約3、4か月間の凄まじいまでの活躍ぶり。もちろん実力があると信じていたとはいえ、その突き抜け具合は望外だったと言えるだろう。

 多くの観客が味スタに足を運び、その異次元のプレーに酔いしれた。今となっては、一度観戦しておけば良かったと思う人も少なくないに違いない。

 FC東京は首位に立つ。久保がFC東京にもたらした効果は大きく、「ウィン・ウィン」の関係と言えた。”レアル・マドリード移籍が決まった”久保の壮行試合を味スタでできれば文句なしだったか。

 一方、18歳の誕生日のあとに関して、クラブが一切関知していなかったという。つまりレアル・マドリードとの交渉にクラブは窓口になっていない。FC東京はそのような”前例”を作ってしまったことになる。

 大金社長の過去の発言を振り返ると、決して嘘をついていなかったことは分かる。久保の欧州への移籍の噂について「まったく関知していない。事実誤認」と繰り返してきた。

 間違っていない。しかし、クラブのまったく知らないところで、移籍の話が進んでいたことになる。今回はレアケースだったとはいえ、そういった動きを、クラブとして掴めていなかったとしたら問題だ。そんな選手が複数人いたら、チームとして許されるだろうか。

 もちろん、18歳の誕生日とともにフリーになる、ことを必須条件に、FC東京は15歳の久保を迎え入れることができた。一つでも条件をクリアできなければ、話は頓挫していのだろう。ただ、すべて選手サイドに主導権が握られたまま3年間を過ごしたあたり、結果的にFC東京らしいとも言えそうだが、懐が深く、脇が甘かった、という両面を見せた。

 何より「世界一」というビジョンを持って選択をしてきた久保は、まさに先を行く存在となった。どこまで突き抜けていくのか、とても楽しみである。

 一方、メディアも把握しきれなかった今回のルール。ユース上がりの若手選手は基本的に複数年契約を結んでいるため、久保もそれに該当するとすっかり信じ込んでいた。今後は「18歳誕生日フリー(その時点で一旦見直す)」を条件に、クラブと契約するケースが増えそうだ(これまでもあったのかもしれないが)。

 ブラジルに渡った三浦知良、セリエAで王者になった中田英寿、オランダ2部で得点王に輝き成り上がった本田圭佑、ドイツで名声を集めマンチェスター・Uに移籍した香川真司……いろいろな形でサムライたちは新境地を切り拓いてきた。

 久保もまた前例にとらわれず、「世界一」というブレない指針のもと、過去誰も通ったことのなかった道を進もうとしている。彼はクラブを通じて、次のように移籍に関するコメントを発表している。

「FC東京のファン・サポーターのみなさま、この度、レアル・マドリードに移籍することになりました。チームが首位をキープしている中、シーズンの途中でチームを離れることは難しい決断でした。

 ただ、自分で決めた以上は悔いの無いよう、責任を持ってしっかりサッカーと向き合いたいと思います。

 日本に帰ってきてから今まで、色々なことがありましたが、自分を成長させてくれたFC東京に関わるみなさんには、感謝の言葉しかありません。

 本当にありがとうございました。

 これから先は何が起こるかわりませんし、不安も少なからずありますが、FC東京で培ってきたもの、そして歩んできた日々が、自分の自信となり背中を押してくれると信じています。

 これからは、FC東京の久保建英ではなくなりますが、一人のサッカー選手として、温かく見守っていただけると嬉しいです」

 まずは日本時間の18日朝、「レアル・マドリードの久保建英」が日本代表の一員として、コパ・アメリカ(南米選手権)のグループステージ初戦、チリ代表戦を迎える。

文:サカノワ編集グループ

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