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今夏最大の驚き、渡辺皓太が横浜FMに完全移籍。”あと一歩”を越えるための決断に

東京Vでの渡辺皓太。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

昨年は悔しい思いを続け、コパ・アメリカではA代表デビューならず。

 東京ヴェルディのMF渡辺皓太が8月8日、横浜F・マリノスに完全移籍することが発表された。ジュニア時代から育てられてきたヴェルディのDNAを持つ男であり、アジア大会など東京五輪代表チームの中心を担い、今夏、コパ・アメリカの日本代表にも招集された。着実に成長を遂げてきたが、今年10月に21歳になるミッドフィルダーは、さらなる飛躍を遂げようと、新天地を求めた。その決断の背景には、昨年から続く”あと一歩”を越えるために、という思いがあったはずだ。

 今回、東京Vの永井秀樹監督が渡辺の移籍を受けて、次のようにコメントを発表している。

「東京ヴェルディを愛する皆様へ。

 この度、渡辺皓太が横浜F・マリノスに移籍することとなりました。自分が監督となり、これからの新しいヴェルディ、新しいスタイルを作っていく上で替えの利かない欠かせない存在であり、近未来を見据えた新生ヴェルディの中心となる大変重要な選手を失うことは、正直非常に残念であります。

 本人とも腹を割って時間をかけて、もちろん残留を強く望んで慰留してきましたが、やはり皓太本人の強く固い決意があり、大変苦渋の決断ではありますが、本人の意思を尊重し送り出すこととしました。

 緑で育った皓太のさらなる成長を願いつつ、皓太をはじめ緑から巣立った選手たちが再びヴェルディでプレーしたいと思えるようなサッカー、チームを目指して、残ったメンバーで日々質の追求に全力で取り組んでまいります。

 引き続き、東京ヴェルディへのご支援、ご声援を何卒よろしくお願いいたします」

『豆タンク』とサポーターからも呼ばれてきた渡辺は、ボールを確実に収める技術に長け、鋭いターンから推進力を与えてきた。パスをはじめキックの多彩さと精度の高さも武器である。

 まだ19歳だった2年前、2アシストを記録して3-1の勝利を収めたレノファ山口戦、「(山口との)前回対戦の時に空いていたスペースが頭の中にあって、そこを上手く突くことでゴールにつながりました」と、冷静に振り返っていたのには驚かされた。

 あらゆるデータが蓄積されていて、それを瞬時にピッチに落とし込んでいたのだ。

 ただし、最近は”あと一歩”での悔しい思いを繰り返してきた。

 昨年はU-21日本代表の中心選手として臨んだアジア大会決勝で、宿敵の韓国に敗れて準優勝に終わった(先発し延長後半4分までプレー)。チームでは、J1・J2昇格プレーオフ決定戦まで勝ち上がったものの、最後、ジュビロ磐田に敗れた(後半45分間プレー)。

 そして今年、コパ・アメリカの日本代表に招集された。しかし、直前のリーグ戦で負ったケガが影響したこともあったが、一度もピッチに立つ機会を得られなかった。

 あと一歩。しかし、明らかな大きな「差」を突き付けられてきた。韓国にも、磐田にも、内容的には完敗を喫した。そして、コパでは全3試合にベンチ入りしながら、すぐ目の前にある舞台に立つことができなかった――その悔しさは、きっと本人しか分からない。

 今回の移籍決定を受けて、渡辺は東京Vの公式ホームページで次のようにコメントしている。

「この度、移籍することになりました。シーズン途中で移籍を決めたことを申し訳なく思っています。

 しかし、自分のサッカー人生の目標の中で将来を考え、夢へ進む一歩としてこの判断に至りました。

 4歳の頃からお世話になり、自分の人生のほとんどをヴェルディで過ごし、ここまで育ててもらい、本当に感謝しています。応援してくださる皆様、家族、そしてヴェルディのためにも、もっと成長していきます。

 本当にありがとうございました」

 一方、横浜FMの広報部を通じて、次のようにサポーターに呼び掛けた。

「はじめまして。

 東京ヴェルディから移籍してきました渡辺皓太です。

 Jリーグを代表するクラブでプレーできること、とてもわくわくしています。チームのことを理解し、少しでも早くピッチに立って戦力となれるよう頑張ります。

 応援よろしくお願いします」

 一転して低迷する東京Vを復活させることが、自身の最大の使命であると肝に銘じて戦ってきたことが伝わってくる。しかし、とにかくもっと先へ突き抜けたい、それには時間がないという危機感も滲み出ている。気付けば下の世代である久保建英や安部裕葵がA代表デビューを果たし、海外への夢のチャレンジに向かったことも、少なからず影響しただろう。

 何より、まず日本一(タイトル獲得)になってさらに先へ進みたい、という渡辺と横浜FMの思いが合致したと言える。もちろん横浜FMとしては、天野純に続き、三好康児にもベルギー移籍の可能性が浮上しており、そのなかでチーム力を上げられるタレントとして、白羽の矢を立てたという戦略的一面もあるだろう。

 技術やタフさは日本代表にも選ばれるレベルにある渡辺だが、ずっと感じてきた「紙一重」ではあるけれども「確かにある差」――それが一体何かを知るための、初のJ1挑戦になる。ただ、案外、横浜FMに加わることで、その壁を易々と越えていく可能性もある。それだけの特徴的な武器を持った選手が揃っている。渡辺が彼らの特長を引き出し、自らも生かされ、重戦車のごとくゴールへと突き進む。横浜F・マリノスとともに、”あと一歩”を越えてみせるはずだ。

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[取材・文:塚越始]
text by Hajime TSUKAKOSHI

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