【解説】パワハラ問題。湘南のフロントに厳しい制裁が科された意味こそ考えたい

湘南の曺貴裁監督。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

報告書は「クラブとしての責任」に重きが置かれている。

 Jリーグは10月4日、湘南ベルマーレの曺貴裁監督のパワーハラスメント(パワハラ)疑惑に関する「湘南ベルマーレに関する通報などにかかる調査報告書(要約・公表版)」を発表し、村井満チェアマンは曺監督にけん責と5試合の出場停止、湘南にけん責と制裁金200万円の制裁を科した。そして8日、湘南は曺監督の退任を発表した。指揮官の現場復帰の道を模索してきたフロントだが、対応が常に後手に回り、結果的にクラブ全体が大きなダメージを受けることになった。

 報告書での生々しい選手・スタッフ、曺監督の発言が話題を集める。ただし、今回のJリーグが下した制裁で注視すべきは、監督とともにクラブ(フロント)に大いに問題があった、と指摘している点だ。

「客観的事実(証拠)」があまり残っているわけではないため、曺監督の言動の程度までは把握できないとも調査チームからは説明があった。ただ、いずれにせよ曺監督の過剰になっていった指導を、誰も止められなかったクラブの体制にこそ今回の問題の原因があった、と一つの結論を導き出している。

 報告書には「社会的非難を受け得る状況を招いてしまったことについては、フロント幹部の責任は重い」と記される。つまり、湘南のクラブ内で解決できなかったことに苦言を呈している。

「フロント幹部(会長・社長・スポーツダイレクター)の対応について」という報告書の項目では、次のように指摘されている。

▼会長(眞壁潔氏)

 会長については、曺氏や他のスタッフとは異なる場所で通常執務している模様で あるが、15年以上社長又は会長の職にある上、近年は試合後のロッカールームに入る機会も多く、曺氏によるスタッフや選手に対する不適切な言動を相当程度認識し得たものと認められる。また、同氏の言動を主たる原因として練習に参加できなくなった選手や出勤できなくなったスタッフが複数存在したことも認識し又は認識し得たと認められる。

 しかしながら、会長が、曺氏に対してその言動を適時適切にかつ明確に注意したり、改善させようとしたりした形跡は本件調査においては認められなかった。

▼社長(水谷尚人氏) 

 社長については、3年以上その職にあるものの、曺氏や他のスタッフとは異なる場所で執務し、練習も週1回程度しか見ておらず、試合後のロッカールームに入る機会も(殆ど)無かった模様であることなどからすると、曺氏による選手やスタッフに対 する言動を自ら現認する機会は多くはなかった可能性が高い。

 もっとも、曺氏の厳し く激しい言動については他のJクラブ関係者にも広く知れ渡っている模様である中、 湘南ベルマーレの最高幹部の一人たる社長は、曺氏の言動や、同氏の言動を主たる原 因として練習に参加できなくなった選手や出勤できなくなったスタッフが複数存在したことにつき相当程度認識し又は認識し得たと考えるのが合理的かつ自然であり、現に、同氏の物を蹴る等の行為については一定程度認識していたことを認めている。

 しかしながら、社長が、曺氏に対してその言動を適時適切にかつ明確に注意したり、 改善させようとしたりした形跡は本件調査においては認められなかった。

▼スポーツダイレクター(坂本紘司氏)

 スポーツダイレクターについては、2016年の8月に着任し、以降は出張等で不在の期間を除いて殆どチームやスタッフと一緒に行動していたことから、曺氏のス タッフ及び選手に対する前記認定事実の大半について認識し又は容易に認識し得たと認められる。

 そしてスポーツダイレクターは、曺氏の言動には問題があること及び自身が曺氏の言動を改めさせるべき立場にあることを認識しつつも、チームの好成績や選手のパフォーマンス向上などにつながる例もあったことなどから、曺氏の言動を改めさせることを必要十分にはなし得なかったと認められる。

 また、曺氏のスタッフや選手に対する言動の実態やその問題性についての、スポー ツダイレクターから社長・会長への報告・連絡・相談も殆どなされなかったと認められる。

 なお、スポーツダイレクターは、本件調査が行われるような事態に至ったことに関する自身の責任を痛感し、深く反省しているものと認められた。

――・――・――・――

「結果」を残した監督が、選手の人事などクラブのさまざまな実権を握っていく。少なからず耳にする話である(はっきり言って、結果的に上手くいった試しがない)。そこでフロントと交渉や話が折り合いが合わず、監督の側が退団を選択するケースも意外とある。

 今回の湘南の場合、曺監督が実権を握っていく環境下で、スタッフ・選手を精神的・身体的にも追い込み、ピッチ外にまで影響が及んでしまった。それにすら関知できない、あるいは知っていながら対応できなかった。Jリーグは、そのパワーハラスメントが起きていった素地について、かなりの文量を割いて問題点を伝えてもいた。

 クラブはこの報告書の発表を待って、指揮官の現場復帰への何かしらの道筋を示したかったことが感じられた。しかし、そのようにクラブの責任も問われている。湘南がクラブとして、どのように、何に着手すべきか分からない……そのような状況に陥ってしまった感もある。曺監督を復帰させるとしても、それを決断するのが現フロントであっていいのか? と。そういった自問自答も、湘南側が結局謝罪するだけで終わった4日の記者会見の内容を読むと伝わってくる。

 裁定委員会の諮問を経ての制裁内容は妥当と言える(ちなみに2014年の浦和の「無観客試合」の裁定が下されたプロセスは今回と異なるので、それについては改めての機会に触れたい)。「軽い」という声もあるが、「5試合」の出場停止は十分に重いものだ。

 言い方を変えると、クラブがもう少し迅速に対応していれば、曺監督の退任までは避けられたはずだった。湘南側からすれば、そこまで発表するのか……と言えるレポート内容だったかもしれない。が、Jリーグに全面的に調査を委ねての結果であり、やはり自浄できなかったフロントがあらゆる面で「甘い」と言われて仕方ない。

 そういった体制だからこそ、船頭に立つ曺監督が、あまりにいろいろな役割を担っていた側面も浮かび上がってくる。

 曺監督一人を責めるべき問題ではない。

 クラブ側も、この報告書を受けて、ハッと気付かされたことも多かったに違いない。

 特にプロクラブの監督にはカリスマが求められる。曺監督の集めた人望は評価されるべきで、決して資金が潤沢ではなかったクラブにタイトルをももたらした。曺監督を慕って湘南に出戻ってきた選手が少なくないことも、また、触れておくべき事実だ。

 一方、「曺監督の顔を見たり、クラブハウスに近づいたりするだけで吐き気を催した」という選手がいた事実もまた重い。ちょっと異常である。

 そして湘南は今、路頭に迷いかねない。結局、「湘南スタイル」は曺貴裁の築いたスタイルだったのではないか? そんなテーマも突き付けられる。湘南ベルマーレとして、積み上げてきた「スタイル」はあるのか。クラブのアイデンティティとは何か。そういった深いテーマに行き着く。

 こうした事態を受け、昨年経営権を取得したRAIZAPグループが、よりクラブ運営にも加わってくることになるだろう。また、水谷社長はゼネラルマネジャー職の設置を検討しているという。プロフェッショナルなフロントを育てるということも湘南の次なる使命になる。坂本氏、島村毅氏……湘南とともに歩んできた魅力ある人材はきっと育ってきているはずだと思う。新監督の人事は未定だ。

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[文:塚越 始]

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