魅せて勝つ鹿島へ「ザーゴスタイル」の期待と課題
鹿島アントラーズのイレブン。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
セルジーニョの12点をどう埋める?「いいサッカーはするけれど…」の不安を、開幕から解消できるか。
2月21日に開催されたプレシーズンマッチ「いばらきサッカーフェスティバル」の水戸ホーリーホック対鹿島アントラーズ戦、鹿島はルーキーの18歳、荒木遼太郎のゴールで1-0の勝利を収めた。これで敗れたもののアジアチャンピオンズリーグ(ACL)プレーオフのメルボルン・ビクトリー戦(●0-1)と水戸戦、実戦2試合を行ったことになり、そこから見えた「ザーゴ新スタイル」の目指す先を検証するとともに、期待と課題をまとめた。
水戸戦では鹿島の伝統である4-4-2が採用され、ピッチの幅を広く使いながらリズムに変化を付け、敵陣に隙ができれば、縦パス(クサビ)でそこを突いて打開していく――という攻撃を見せた。
近年は勝利を何よりも優先する重圧を強く感じながらプレーしてきたように見えた鹿島だが、「主導権を握る戦いへ」という今季のクラブの方針のもと、クラブのベースをしっかり生かしつつ、新たな領域に意欲的にチャレンジしている。そんなとても前向きな印象を受けた。
この日は両サイドバックに内田篤人、山本脩斗という経験豊富な二人が入ったことで、ザーゴ監督の意図するスタイルを、まずしっかり表現しようというトライも感じられた。その二人がサイドで起点を確実に作っていったことで、ザーゴ監督も「前半は狙い通り」と振り返ったように、相手を威圧して中盤から前の選手もかなり思い切って仕掛けられていた印象を受けた。
記者席では「このチームだったら、メルボルン・ビクトリーに勝っていたかも?」という話も出ていた。もちろん相手チームのコンディションやレベルなども関係していて、ただの”たら・れば”話に過ぎないが、そのACL敗戦をむしろチャンスにしてみせようという選手たちの意欲も伝わり、充実した内容だった。
77分に交代出場を余儀なくされた内田篤人だが、こんなことを語っていた。
「(内田と山本が)ワイドに開いて、ボランチが下りたり、下りなかったり。もちろん相手があってのポジショニングになってくるけれど、”ピッチを広く”という意識。そのなかで判断を早くと言われています。ハーフタイムには監督が『縦の意識はいいぞ』と言ってくれました。決して、横、横というのではなく、縦も入れて、つまったらサイドを変えていく」
つまり、サイドバックが比較的高い位置を取り、横に緩急をつけてパスをつなぎながら、ここだとタイミングで、あるいは誰かが動き出した瞬間、縦パスを入れてスイッチを入れる。そんな狙いが感じられた。
また、ボランチや攻撃的MFの2枚は素早いトランジション(切り替え)が要求され、永木亮太、小泉慶はその役割をまっとう。さらには、途中出場したレオ・シルバは改めて”別格”の存在感も示していた(スピードの部分で二人より不足を感じるが)。
しかし、危険も潜んでいるように感じられた。そこが最も重要で、まだベールを脱いでいないザーゴの成功を占うポイントかもしれない。
あくまでもコンディション的に大切なのは開幕から次第にピークへ持っていくこと。特に瞬間的な爆発力が求められるFWはそうなる。若手と異なり、実績を残してきた選手は開幕前の今、調子がいい必要はない。
だから、そこまで気にすることはないとも言える。ただ2年目の伊藤翔は水戸戦、ターゲットになる役割をこなしていた一方、ややアジリティに物足りなさが感じられた。加えて、メルボルン・ビクトリー戦で抜擢された新エース候補のエヴェラウドもあまりパッとした良い印象を残すことができなかった。新9番がハマるかどうかは、まさに鹿島の命運を握る。
中盤起用がメインだったもののセルジーニョ(退団が決定)が決めた「12点」をどのように補い、どのようにさらに上回るのか。フィニッシャーの”ラストピース”が課題だとは感じられた。そこが埋まらないと、鹿島と言えども、下手をすると「いいサッカーはしているけれど……」というチームになってしまいかねない不安も、期待との表裏一体で感じられた。
逆に言えば、そのフィニッシャーのところが一つハマれば上位に食い込んでいける、と言える。その意味で、2列目からアグレッシブにゴールへ向かえる、好調なルーキー荒木遼太郎を開幕から起用していくのも一つの方法だろうか。
ザーゴ監督は試合後の記者会見で、「前半は完璧に近い内容でした。フィジカル的に良い状態の時は良さを多く出せたと思う。練習から負荷をかけているので後半は足が止まり、多少チグハグなところもありました。全体的に選手たちは練習でやってきていることを表現しようとしてくれていました。私自身としては、満足のいく試合内容でした」と手応えを得ていた。
水戸戦の前半の戦いぶりを見ていると、鹿島の選手たちは、こうした戦い方をしたかったのだろうなと、そんなポジティブな印象を受けた。ピッチを広く優雅に使って、大胆に攻める。その呼吸をいかに合わせて、ゴールに向かう「技」のバリエーションを増やしていくのか。
そんな魅せて勝つ「ザーゴ流」鹿島が、2016年度の2冠(Jリーグ、天皇杯)以来、4年遠ざかる国内タイトルの獲得を目指す。
鹿島は2月16日にルヴァンカップ・グループステージ、アウェーでの名古屋グランパス戦、そして23日に同じくアウェーでのサンフレッチェ広島戦でJ1開幕を迎える。ホーム初陣は、26日のルヴァンカップ川崎フロンターレ戦、28日のJ1・2節のヴィッセル神戸戦だ。
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[取材・文:塚越始]