【湘南】岡本拓也が語った激動の日々、そして主将就任へ「メンタルってなんだろう」
湘南の岡本拓也。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI
あの徳島との死闘のあと――。
湘南ベルマーレのDF岡本拓也が2020シーズン、チームのキャプテンに就任した。浦和レッズからの期限付き移籍を経て、完全移籍に切り替え2年目、紛れもなく”湘南の男”となり、チームを支え盛り立てる。
少し遡るが昨年12月14日、徳島ヴォルティスとの死闘の末にJ1残留を果たしたBMWスタジアムでのJ1・J2入れ替え決定戦のあと、岡本はとても心に残る話を語っていた。そこから「キャプテン就任」のプロセス、そして2020シーズンに懸ける想いにもつながってもきそうだ。
「『メンタルって、なんだろう』と考えさせられるシーズンでした」
J2降格、J1復帰、J1残留……2016年の加入以降、湘南で波乱を乗り越えてきた岡本は以前「いろんなことを前向きに捉えられるようになってきた」とも語っていた。
ただ、それでも2019シーズンの激動は、やはり堪えた。曺貴裁前監督の退任のあと、チームは崩壊した。崩壊しかけた、ではなく、そう全員が現実を認識し受け止めることで、湘南は土壇場で改めて一つに結束し、這い上がることができた。
「いろんな問題があり、自分のなかで葛藤もありました。ネガティブになることはやはりありました。本当に、どうしたらいいか分からなかったですし、苦しかった。ただ、最後の数試合、そこだけポジティブと言いますか、メンタル的に落ち着いてできました」
夏場以降の監督不在期間、そして浮嶋敏監督就任決定まで。それぞれの立場でのそれぞれの考えがあった。誰を信じ、どこへ向かえばいいのか、正解はなかった。移籍を選択する選手も出た。ただ、岡本はそういった混乱のなかで決意を固めた。
「覚悟は決まりましたから。湘南を落とすわけにはいかない。バラバラになったチームを、もう一度一つにできた。それがすべてで、本当に良かったと思いました」
浦和レッズでは2種登録時代の2010年にデビューを果たし、実質プロ11年を戦ってきた。岡本も自己分析はできている。
「乗っているときは何をやってもいいプレーができる。だからこそ、そういった状況ではない時、どういったことができるのか。そこを改めて考えさせられました」
確かに心にゆとりを持てている時の岡本は、恐ろしいぐらい”ゾーン”に入り、どんな相手でも食い止めてしまう。そんな印象がある。
2019シーズンラストマッチとなった徳島戦は「このメンバーでできる最後の試合で、楽しもうと思いました。でも、とても楽しめる感じではなかった(苦笑)。(ラスト5分間は)松本戦のこと(アディショナルタイムでの被弾)が頭によぎり、生きた心地がしなかった」と、ジェットコースター以上のスリリングさを最後の瞬間まで、自身も味わい、サポーターにも提供する形になった。
「本当、良かったです。この経験を生かせるように、頑張るしかありません」
そういった言葉の端々から、岡本がサッカー人生初というキャプテンを務めることになった背景を浮かんで見えてくる。
2020年2月21日の古巣である浦和とのJ1リーグ開幕戦、湘南の背番号6は3-5-2の新布陣の右ストッパーで先発フル出場した。昨季は右ウイングバックを務めてきたが、一つ後ろに下がった形で、「最終ラインからビルドアップにより加わっていき、どちらでもプレーできるようにしていきたい」と意気込みを示していた。
果たして、どのようなドラマを今季は提供してくれるのだろうか。おそらく波乱万丈の展開はあまり欲してはいないとは思うが……。27歳のファイター岡本が、チームのため、湘南のため、勝利を掴もうと前向きに挑む。
[取材・文:塚越 始]