【この1枚】ACL決勝、阿部勇樹はアル・ヒラルを称えて前を向いた
昨年11月、ACL決勝のあと、優勝したアル・ヒラルをたたえ拍手を送る浦和の阿部勇樹。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI
あの光景を取り戻す日は――。
昨年11月24日に埼玉スタジアムで行われた、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)決勝のアル・ヒラル(サウジアラビア)との第2戦を終えた直後の1枚だ。セレモニーが行われるなか、優勝したアル・ヒラルをたたえて拍手を送る浦和の阿部勇樹の姿があった。
超過密スケジュールのなか、アウェーでの第1戦は時差7時間の調整もままならず臨むことに。防戦一方の浦和の選手たちはフラフラになりながらも辛うじて耐え、0-1と最少失点に抑えホームでの第2戦に望みをつなげた。
そして、浦和の逆転での勝利と優勝を信じて、サポーターが真っ赤に埼玉スタジアムを染める。圧巻のコレオグラフィと声援と拍手。その後押しを受けて、浦和の選手たちも死力を尽くしたが……。完全アウェーの雰囲気の中でも慎重な試合運びをしたアル・ヒラルにアウェーゴールを奪われ、2試合トータル0-2で敗れた。
なぜ、ナイトゲームだったのか。無論、相手には万全の準備をした状態で臨んでもらいたい。一方、ホームアドバンテージも生かしたいところで、例えば前年優勝した鹿島はホームでの決勝をデイゲーム(相手の早朝にあたる)で開催していた。そして今回のアル・ヒラルも日本の真夜中の時間帯に組んでいる。
浦和が開催した日本のナイトゲームの時間帯は、ちょうどサウジアラビアの昼間――活動的な時間帯だ。もちろん寒さが増していれば浦和のほうが有利に働いていたかもしれず、すべては結果論とも言える。とはいえ、そう何度も訪れないビッグチャンス。何としてもタイトルを獲るという視点に立てば、そういったディテールも検討課題になるだろう。
アジアの頂点に立つ。その厳しさと難しさを、改めて思い知らされた。
そして、この決勝第2戦、浦和の最年長である阿部は最後のカードで投入され、ラスト2分間ピッチに立った。
2007年と17年と浦和で優勝している阿部にとって、ACL決勝で初めて敗戦を味わうこととなった。とはいえ悔しさを噛みしめながら、彼はセレモニーで、アジアの頂点に立ったアル・ヒラルの選手たちに拍手を送っていた。試合後には「みんなで喜ぶことができなくて、それが何より残念でした。最後まで諦めず1点取れれば、サッカーは本当に何が起きるか分からない。1点取れればスタジアムも、仲間の雰囲気も、ガラッと変わると思っていた。だからこそ、残念です」と語った。
阿部はそのように敗戦を受け止めていた。
あの光景を取り戻す日はいつになるのか。
まるで全員が遠足に行くかのように幸福で高揚した超満員のスタジアム、興奮のジェットコースターに酔う90分間、視線の先には静かに燃える22番――。
もちろん次は、歓喜の瞬間が訪れることを誰もが願っている。
ただ今年39歳になる闘将・阿部勇樹は勝利も敗北もどんな現実も受け止め、前進してきた。そうやって一歩ずつ、自身とチームの未来を切り開いてきた。