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Jリーグの懲罰、多くの矛盾。コロナ陽性でもベンチ入りOK、という解釈に。浦和も指摘する曖昧さ

写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

厳格な規定のはずが、一部“減罰”、一部“規定通り”と、独自の判断も疑問。

 コロナ禍の申告漏れによる選手エントリー問題で、Jリーグは福島ユナイテッドFCがヴァンラーレ八戸に2-0で勝利していた試合について「0-3敗戦」扱いの没収試合にする懲罰を下した。一方、山形モンテディオは同じくエントリー資格のない選手1人、また水戸ホーリーホックはスタッフ1人、それぞれがベンチ入りしていたものの、いずれも「試合には出場していない」ことから、けん責のみの処分にすると決めた。

 Jリーグはその理由について、JFA懲罰規程の懲罰基準『出場資格の無い選手の公式試合への不正出場(未遂を含む)』には該当しないと判断したと説明する。

 つまり、山形のケースでは、「出場資格がない選手がベンチ入りしていたが、試合に出場していないのでセーフ」として、没収試合にはしないという決定を下したのだ。

 決して、モンテディオ山形に問題があると言っているわけではない。

 規定には「未遂を含む」と記されている。同じく没収試合とされた浦和もCAS(スポーツ仲裁裁判所)への提訴の中で指摘しているが、そもそも登録上で資格のない選手がエントリーした場合について定めた罰則の条文である。この規定をもとに、各地域・種別を含めた大会では、例えば、まったく登録が完了していない選手はもちろん、出場停止の選手がベンチ入りしていた事実が分かれば、「未遂」であり没収試合扱いになる。無論、監督やスタッフも該当する。それは至極当然であり、納得のいくものだ。

 しかも、今回そもそもの前提が「新型コロナウイルス感染症の感染拡大対策」である。ウイルス保菌者を絶対にスタジアムに入れないというのがJリーグのスタンスだ。

 しかし、この山形の例が認められると、ひょっとしたら陽性者かもしれない、という状態でベンチ入りしていたが「試合に出ていないからセーフ」という解釈になる。所定の検査結果が分からない「出場資格」のない選手が「エントリー」している。試合には出場していないが、ロッカーとベンチに入り、ピッチで練習している……。Jリーグのこの問題に対する立場で語るならば、そうなる。その時点で、大問題であるはずだ。

 また、浦和は先日のCASへの提訴の際、Jリーグの懲罰規定について、事実上、規律委員会が独自に一部のみ“減罰”にした点も指摘している(クラブと選手自身への1か月の出場停止→クラブへのけん責のみ)。

 そうした点で、この山形への処分についても、Jリーグが独自の匙加減で「今回はセーフ」と判断した点も疑問視される。

 加えて浦和の場合、Jリーグと話し合うなかで、そのエントリーの不備が発覚している。しかし山形のケースは、Jリーグの調査により分かった。このまま不明だった可能性もある。捉え方によっては、“隠蔽していた”ともなりかねない(決して山形を疑っているわけではない。今回の裁定内容の限りでは)。規定に基づき懲罰を下そうとしているJリーグが、ここで“情状酌量”を持ち出す点もまた理解しかねる。

 Jリーグはこのルールの落ち度に気付き、全件調査に乗り出した。しかし本来のルールの狙いから逸れ、福島の勝点剥奪と敗戦扱いの被害に見られるように、体面を整えるためのミスを探すための調査になってしまっている。

 多くの矛盾が生じている。そしてJリーグをはじめスタッフも薄々こんな状況が本来の狙いや意図ではなかったと感づいているはずだが、もう引き返せなくなり、あくまでもJFA懲罰委員会の決定であると、責任の所在をも曖昧にしている。そもそも、結果的に選手にさらなる負担とダメージを与えていることに、Jリーグは気付いているだろうか。そこまで(CASへの提訴、勝点はく奪)の問題ではなかったはずである。

 Jリーグがこのまま独自のルール解釈を講じるのは、限界に来ていると言える。そして各クラブがこの流れを認めてしまうと、今季のみならずこれからのリーグ運営にも支障をきたしかねない。つまり、一方的な規定の解釈や決定が今後も起き得ると危惧される。コロナ禍で縦横の気軽なコミュニケーションが取りにくくなっている点、想定外や突発的な業務の増加なども多いに影響していると思われる。ただJリーグに内在していた課題が、ここで一度露呈している印象を受ける。

 Jリーグがこのまま突き進んでも、もたらすプラスやメリットはない。村井満チェアマンの最後の任期満了も迫っている。前向きになれる落としどころを見出せないだろうか。

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[文:塚越始]

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