×

【指導者の視点】オマーン戦で見えた2つの「個人のプレー原則」欠如│日本代表、敗戦を紐解く

日本がオマーンに敗れた敗因を紐解く。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

酒井宏樹が常に危険に晒されていた。攻撃では「前向き」の選手の利点生かし、脅威を与えたい。

 カタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選、日本代表はオマーンに対し、脅威を与えるシーンをほとんど作れず0-1で敗れた。この黒星につながったと言える試合を通しての日本の課題、2つの「個人のプレー原則」に着目して紐解きたい。

1)ゴール前の守備、まず守るべきものは何か

 50分に長友佑都が一旦ハンドの反則でPKを取られた場面(VARによりノーファウルに覆る)。これは危険だとアラートが発するペナルティエリア付近、チームとして、まず守らなければならないものは“ゴール”であり、ここで一番危ないものは“ボール”だ。

 すなわちボールをいかにゴールに近づけないかを判断することが前提になる。

 酒井宏樹が突破されてクロス → 長友がブロック。このシーンで気になったのが、伊東純也の守備だった。

 まず考えるのが「個人のプレー原則」での守備の優先順位。一番はゴール方向にボールを運ばせないこと。

 ゴール前までインナーラップしてきた選手に、伊東がマークにつこうとする。ただその選手が外に開くと、一緒に行ってしまう。オマーン目線で見ると、外側へ引き出すことに成功している。

 ペナルティエリアの深い位置まで進入されていて、原則では、酒井へのカバーを優先すべきだった。

 日本が一瞬2対1で守れていたのだが、伊東はボールホルダーに向かわず外れ、1対1に持ち込まれた瞬間、酒井も打ち破られた。

 このシーンに象徴されるように、日本はピンチでも酒井が常に1対1、あるいは1対1.5人や2人の状況に晒されていた。

 VARで判定が覆り安堵感が広まったとはいえ、結果的に、チームとしてはサイドを突破され決定機(危うく失点)を作られていた。

 伊東が「ゴール方向にボールを運ばせない」を前提に連動したりカバーしていれば、あの深い位置まで運ばれた可能性は低い。

 このような、一人ひとりがアラート発生時に守らなければいけないもの(優先順位の高いもの)への判断ミス、優先順位の不徹底が、この試合で常に見られた。オマーンのミスに助けられたとはいえ、多くのピンチを作られる土壌があった。

 その問題が改善されないまま、失点シーンにつながっていった。

2)「前向きフリー」の選手に対するサポートの原則は何か

「前向きフリー」でボールを持つ。ボール保持者が、前方へのプレーを選択した時、周囲はどのようなサポートをすべきか。

 原則はその選手を越えていくこと。それを前提にすることで、(結果、追い越さなくても)いろいろな選択肢が生まれる。

 この試合、4-3-1-2の守備組織を構築してきたオマーンに対し、日本はサイドで(長友、酒井のサイドバック、原口元気、伊東、古橋亨梧らサイドハーフ)フリーになる場面が多かった。しかし彼らがフリーのままいい位置でボールを受けても、周りの選手は横や後ろにいた。

 横や後ろのサポートは、ボール保持をしやすいものの、相手の守備組織に変化をつけにくい。 

 単独の仕掛けが優先され、例えそれが成功しても、「前」に人がいないのでフォローを得られない。だからオマーンはバランスよく守れていた。

 味方を越えていく動きがあれば、まず守備ラインを突破する選択肢ができて、相手はその越えてきた選手に対応。自然と守備組織に変化が生じる。

 もしもその飛び越した選手がボールを受けられなくても、今度は他の味方がより良い状況でボールを受けられる確率が高まる。

 そのように変化の連動が起きれば、今度は個人のちょっとした判断で、チーム全体がスムーズにゴールへ向かえて、チャンスの芽がいくつも生まれる。

 戦術的な問題、選手のコンディション、悪天候によるピッチコンディションなど、思うようにいかなかった要素は数多くある。ただ個々が正しい判断や原則に基づいたプレーを行うだけで、この試合の様相は大きく変化したのではないかと感じる。また、サッカーを観戦する際、「個人のプレー原則」に着目してみるのも面白いと思う。

◎プロフィール/佐川祐樹(さがわゆうき)
1992年4月25日生まれ、広島県出身。 広島大学大学院時に指導者キャリアをスタート。 広島皆実高校サッカー部コーチ、広島修道大学サッカー部監督を経て、2018〜2020シーズンの3年間、FC今治のU-14コーチを担当。元日本代表監督でFC今治オーナーの岡田武史氏から「OKADA Method」を学び、原理原則やプレーモデルを大切にする育成法を学ぶ。 現在は、山口市役所で勤務しながら山口県のサッカーに携わっている。

※ サッカー日本代表(SAKMURAI BLUE)は日本時間9月8日0:00から、カタールW杯アジア最終予選第2戦、中国代表とカタール・ドーハで対戦する。

【注目記事】
・【オマーン戦 採点】大迫と原口、DF二人に最低点「1」。及第点は唯一…

・まだチャンス!夏の移籍可能な世界のリーグ一覧

【PHOTO ギャラリー】久保建英、中国戦は頼んだぞ!(8枚) カタールW杯アジア最終予選 日本代表-オマーン代表

[文:サカノワ編集グループ]