【日本代表】西野朗監督が掲げた3つのキーワードから浮かぶ「新機軸」
日本代表の西野新監督。(C)SAKANOWA
「日本化したフットボール」「化学反応」「整える」
日本代表の西野朗新監督は4月12日の就任記者会見のなかで、FIFAワールドカップ・ロシア大会に向けたメンバー選考に関して、いくつかの新たな要素となるキーワードを挙げていた。「ベースはこれまでのチーム」と語ったうえで、「グループやユニットで力を発揮させたい」と新戦力の活用についても言及していた。そのうちの3つの言葉から浮かび上がる新機軸について考えてみた。
西野新監督はハリルホジッチ前監督のベースを継承すると言っていたが、それはあくまで中心選手のこと。前体制の戦い方からの完全な脱却を印象付けるように、「日本化したフットボール」を大切にすることを強調していた。コアメンバーはいるが、戦術は変えるということだ。
西野監督は次のように言っていた。
「1対1でのフィジカル的な要素を考えると、パワーを要求するより、別の角度からそういうものに対応できるのではないかと考えています。必要なことに関しては(前体制から)継続していきたいが、日本化したフットボールというものがあり、技術力を最大限に生かし、規律や組織的なところで結束して戦い化学反応を起こしていける強さがある。そういうものをベースに構築していく必要があると思っています」
とはいえ、日本代表の主力選手も最近パッとしない。右サイドバックの酒井宏樹はマルセイユで負傷離脱。長谷部誠誠はフランクフルトでのラフプレーによりシーズン終盤3試合の出場停止に。香川真司もようやくドルトムントの練習に合流したが、実戦は2月から遠ざかっている。いずれもコンディション面の不安材料が残る。
指揮官が強調していたもう一つのキーワードが、先のコメントにも出ていた「化学反応」だ。ハリルホジッチ前監督は選手に様々なポジションで起用しながらバランスを模索していた。しかし、西野監督は期間も限られることから、「選手個々の持つ力をいかに最大限に引き出すか」という点に焦点を当てて、チームを作っていくという。
そして「最高の化学反応を起こす、チーム、グループとなる選手をスタッフと力を結集して選考していく」と、西野監督は訴えていた。ワールドカップ直前となる4、5月のパフォーマンスが選考基準に大きく関係してくることも示唆していた。
西野監督のガンバ大阪やヴィッセル神戸時代の采配を振り返ると、相手に応じて、3バックと4バックを使い分けてきた。現在のJリーグの上位には両方のシステムが混在しており、臨機応変に対応しながら力を発揮できるかどうかもポイントになってきそうだ。そのあたりは、「ユニットやグループ」での連係面にもつながってくる点と言える。
ワールドカップ開幕目前での監督交代劇。周囲の喧噪は凄まじいなか、西野監督はまず「心身ともに自分を整えること」からスタートさせると言っていた。指導者としての2年間のブランクがあるが、ワールドカップに向かう”心の準備=鋭気の養い”も重要だと考えていた。
「基本的には現場とともに戦ったきたので、研ぎ澄まされてきたところもあります。それでも自分を整えるという意味で、心身ともにしっかりしたうえでピッチに立てるように戻していかないといけない部分がおそらくあると思っています」
その「整える」点については、選手にも要求していた。国内組は5月19日・20日のJ1リーグ15節のあと数日しっかり休んだあと、日本代表に合流してほしいと言っていた。
「4、5月の国内組のスケジュールはACLとルヴァンカップを含めて相当な試合数があり、まずリフレッシュする時間を取ってもらい、いい状態でキャンプに合流してほしいと思っています。40日以上のの拘束になり、メンタルをキープすることも大事になってきますから」
短期間とはいえ、なんでもかんでも手をつけてガムシャラに取り組むわけではない。自己を見つめたうえで相手と戦う。そういった姿勢も感じられる。
「日本化したフットボール」「化学反応」そして「整える」……中心選手は変えないが、個々の力を引き出すための組み合わせを考えてメンバー選考する。自分自身とも、対戦相手(ライバル)とも向き合って客観的に戦える頭脳も要求される。
西野監督の訴える日本人選手の「長所」を最大限に生かすなかで、ハリルホジッチ前監督が口酸っぱく言ってきた不足や補なうべき「短所」もぐっとベースアップされ、一つのチームとして昇華される――。それが理想だ。限られる時間のなかで、その実現に向けて、まさに一丸となって着実に段階を踏んでいきたい。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI