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【なでしこアジア女王への軌跡③】W杯と東京五輪に向けて「セットプレー」と「長谷川唯活用法」が課題に

なでしこジャパンがアジアカップ優勝! 天を見上げ静かに歓喜する宇津木瑠美。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

少し心配症なベテランと恐れずチャレンジする若手が一つになってアジアを制した先へ――。

 なでしこジャパン(日本女子代表)が、来年のFIFA女子ワールドカップ・フランス大会の出場権を懸けたAFC女子アジアカップで優勝を果たせた最大の要因に挙げられるのが、粘り強い守備を構築できたことだ。「それもちょっと悔しい気もするけど、実際にはそうですよね」と本音を漏らしたのは主将でありセンターバックとしてチームを支えた熊谷紗季(リヨン)だ。とはいえ、ただ単純に守りを固めて跳ね返しただけではない。

 アジアカップの最終ラインの”ベスト”と言える組み合わせは、右から清水梨紗(ベレーザ)、熊谷、市瀬菜々(ベガルタ)、鮫島彩(INAC)だった。この大会、カバーリングの意識が浸透したことで、相手選手のフィニッシャー(最後の進入選手)に対して一人が強気にボールへ取りに行ける、言い換えればボールを取れる状況を作れていた。そのフォローする声が、ピッチのあらゆるところから飛んでもいた。それはこれまでになかった光景だった。

 このディフェンスの起点を辿れば、最前線にあった。

 特に決勝で2トップを任された岩渕真奈(INAC)と菅澤優衣香(浦和)は、時に中盤まで下がってまでプレスをかけてチームを助けていた。

 しかし、その守備と引き換えに、攻撃面では思うような成果をなかなか得られなかった。相手を追って戻る攻撃陣、守備に奔走するサイドバック……攻撃になかなか厚みを出すためのリスクを負えなかったのだ。

 そのなかで、左サイドハーフに入った攻撃のキーマンである長谷川唯(ベレーザ)は、初めて触れるA代表の”ガチ勝負”のなかで思うようなプレーを出せなかった。

 オーストラリアとのグループステージ第3戦と決勝の2試合では、いずれもアシストを記録してセンスの高さを見せたものの、本人は「良かったのはそれ(アシスト)だけ」と納得していなかった。フィジカルを補うだけの高いテクニックを持つ彼女の活用法は、来年の女子ワールドカップ、さらにその先の2020年の東京五輪に向けたテーマになるだろう。

 他にも攻撃面では、日本の武器であるべきセットプレーで工夫が必要だとも感じる。アジアカップではセットプレーから1点も奪えなかった。逆に言えば、セットプレーが実を結ぶようになってくれば、また異なるゲーム展開にトライすることもできる。得点の匂いが強まっていたなか、その日本の武器を世界大会に向けて残してあるのはむしろ伸びシロとも言える。

 なでしこジャパンは、一つになって大きく成長した。

 少し心配症なベテランと恐れずチャレンジする若手。「私を使って!」と猛烈にアピールする選手も出て、その想いを受け止める選手もいた。これまでどこか本音をあまり見せずに一線を引くところがあった選手たちが、綺麗ごとを言っているだけでは済まされない状況に置かれ、人間味を出して、新たななでしこジャパンが作られていった。

 彼女たちは常に“世界一を獲ったなでしこジャパン”と比較されてきた。このアジアカップで初めてタイトルを掴んだ選手たちは、ようやく“なでしこジャパン”としての自信を持てたのではないだろうか。

 そして「凌いで、凌いで、というだけでは世界とは戦えない」と熊谷は勝って兜の緒を締め、選手たちは世界の舞台に目を向けている。

 高倉監督が掲げてきたように、プレッシングをベースにしながら、状況に応じてしっかりブロックを固める。そして機を見て、前線のスピードやテクニックを生かし、一気にゴールを狙う。アジアカップで構築したスタイルにさらなるゴールパターンを見出したいところ。

 迷い続けてきたスタイルではあるが、全員の共有できるビジョン=方向性は見えてきた。6月にはニュージーランドとの親善試合が控え、7月26日からは昨年に引き続きアメリカで開催される「2018 Tournament of Nations」でアメリカ、ブラジル、オーストラリアといった強豪と対戦する。

 アジアから世界へ。女子ワールドカップと東京五輪に向けて、高倉監督はアジアタイトルを獲得したチームに、いかなる変化を加えていくのか。ここからが楽しみだ。

取材・文:早草紀子
text by Noriko HAYAKUSA

Posted by 早草紀子

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