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【Jリーグ】原博実副理事長インタビュー「外国籍選手枠」「ホームグロウン制」二大改革から総括、今後の課題を考える

Jリーグの原博実副理事長。(C)J.LEAGUE

ホームグロウン制の理想「今後は海外のビッグクラブなどで活躍した選手もカウントし、自チーム所属の育成組織出身選手の割合を定めたほうがいいかもしれません」

 Jリーグの原博実副理事長が3月15日付けで、村井満チェアマンとともに任期満了に伴い退任する。このほど『サカノワ』のインタビュー取材に応じてくれて、競技面の責任者と言える立場にあった原副理事長の“改革”の一つである「外国籍選手枠」の緩和(登録無制限+出場5人まで可)を軸に、東奔西走した6年間の総括とともに今後のJリーグの課題について話を聞いた。

――原副理事長の任期満了に伴い、話を聞かせてください。“総括”と一括りにすると話が広がりすぎてしまいそうで、原さんが尽力された改革の一つに挙げられる「外国籍選手枠」を軸にうかがいます。Jリーグは2019年、外国籍選手枠について「3人+アジア1枠」から「登録数無制限、出場5人までOK」と変更しました。またその流れから、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)の外国籍選手枠も2023-24シーズンから「5人+アジア1枠」に拡大されました。

「私が日本サッカー協会からJリーグに来たあと、その外国籍選手枠の議論になると、『日本人選手が出られなくなる』『日本人選手の枠が減ってしまう』と言われてきました。一方、5大リーグをはじめとする欧州では、EU圏で一つという考え方です。実質的に『外国籍』の考え方がないような状況になっていて、そこに日本人選手も加わって高い競争をしています。ただ一方で、日本であれば選手が守られる、というのでは、決してより高いレベルで争える選手が育たないと感じました。いい競争があってこそ伸びる。ただ、どこでバランスを取るかという課題はありました」

――どのような議論があったのでしょうか?

「例えば、『GKの外国籍選手の活用はやめてほしい』という話はありました。GKは一つしかないポジションで、そこは必ず日本人にするべきだという案が出されました(中国リーグはGKは自国選手のみと規定している)。ただ私はポジションもチームが決めればいいのではないか、と意見しました。チーム内のあらゆる競争が起きなくては意味がないと感じました」

――そして外国籍選手枠が拡大された一方、自クラブで選手を育てるホームグロウン制度もスタートしました。

「そう。個人的には外国籍選手枠より大切だと感じていたのがホームグロウン制度の導入でした。みんな『外国籍選手枠』のほうに注目しがちですが、一方、ホームグロウン枠をJ3まで設けることを決めたのは大きかったです」

Jリーグ「ホームグロウン制度」の概要。※Jリーグ公式サイトより

――ホームグロウン枠は、2019・20年「J1・2人以上」、21年「J1・3人以上」、そして22年「J1・4人、J2とJ3が1人以上」、23・24年「J1・4人以、J2とJ3が2人以上」と定められました。

「ユースまで選手を育てて、さらにトップチームに昇格することを考えると、J3クラブではまだ時間がかかるかもしれません。また、J2やJ3のクラブでは、結果を残した選手がすぐ移籍してしまう傾向にあります。今後は海外のビッグクラブなどで活躍した選手もカウントしたうえで、自チーム所属の育成組織出身選手の割合を定めたほうがいいかもしれません。目的は自分のクラブ、自分の地域で魅力的な選手を育てることですから」

――ドイツ・ブンデスリーガは外国籍選手枠は無制限ですが、各クラブに「自国選手12人在籍、そのうちホームグロウン6枠」、イングランド・プレミアリーグも「ホームグロウン8枠」と定められています。Jリーグもむしろホームグロウン枠が拡大されていくことが理想と言えますか?

「海外は基本的にアカデミーの段階からクラブチームのみで構成されています。ただ日本の場合は中体連まで充実し、高体連、大学サッカーからプロになるケースも多いです。ドイツのように自国で育った選手を区分に加えていくことは、日本でも一案かもしれません」

――Jリーグのホームグロウン制度の課題は?

「日本での課題は、進路の選択肢を増やすため、クラブユースから高体連のチームに移籍してしまう例が最近見受けられる点が一つ挙げられます。例えば私がJ1クラブのユースチームの点取り屋だったとして、しかし、そのトップチームの前線が外国籍選手で固められているので、昇格自体が難しい、あるいは昇格しても出場機会を得られそうにない。ならば高体連(あるいは大学)を選んだほうが好きなチームを選べると考えて、育ったクラブユースから別チームに移ってしまう。選手にとっては当然の権利ですが、Jクラブの投資が結実しなくなってしまいます。そのあたりの制度やルールを整理し、選手と柔軟な契約を結び、クラブもしっかり育成に投資していけるようにしたかったです。そのような環境にしていくためには、もう少し改善が必要だと思います」

――なるほど。

「また、高卒選手はC契約で年俸の上限が480万円と規則で定められています。そのように最初の年俸が抑えられているため、移籍金が上がらない矛盾も生じています。それではあまり競争が生まれず、クラブが育成にお金をかけない、あるいはかけられないという状況も起きてきました。もちろん、Jクラブより高校のほうが環境が良いところも多く、そこは日本の歴史でもあります。そこをどのようにJクラブが受け止めて、変えていくかが今後のテーマだと思います」

久保建英は国際間の移籍が認められる18歳の誕生日を迎えるとともに、レアル・マドリードと契約を結んだ。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI

――そこも、日本で“守られている”とは言えるものの、世界のマーケットから見ると、狙い目になり得ますね。

「直接海外へ行くケースが増えてしまうかもしれません。少なくても高卒で2000万円ぐらいは貰えて、複数年契約を結べれば。例え小さなクラブであっても大物高卒ルーキーと契約して、『1年目に活躍して、この額を提示したクラブがあれば移籍を認める』と言えるような環境が望ましいです。それがアカデミー環境の充実、さらなる投資にもつながります。その投資がなかなか進まずにいます。『Project DNA』(選手や指導者の資質を紡いで、ワールドクラスの選手の輩出を目指すJリーグの育成改革)も立ち上げ、その点についてちょうど深い議論を開始した2年前、新型コロナウイルスでどのクラブも経営を含め大変になり、踏み込めなくなってしまった実情はあります」

高卒1年目の『年俸上限480万円』の課題も指摘、「例え小さなクラブであっても大物高卒ルーキーと契約して――」。

――では、外国籍選手の「条件」を議論するのは、まだ先でしょうか。枠の拡大も影響した一因なのか、Jリーグではクオリティが決して高いとは言えない外国籍選手が来てしまうケースも散見するようですが……。

「それこそクラブが判断して、自己責任でやるべきでしょう。私も監督経験がありますが、登録制限なしとはいえ、何人もいてはマネジメントが難しくなります。せっかく期待されて加入しても、モチベーションを下げてしまうような選手であればチーム全体にも関わってきます。年齢、可能性、タイプ……様々なことを考えて、そこは外国籍選手枠のシステムではなくクラブの責任で。スカウトや強化部の手腕もまたクラブ間の競争になっていくわけです。アカデミー出身や若手選手をどのポジションで使い、そのためにこうした選手を連れてきたい、と。それこそがクラブのビジョン、中期・長期計画と言えるものになっていくと思います」

――例えば、外国籍選手がプレーする場合、イギリスは政府主導ですが国際Aマッチの出場歴や5大リーグでの出場歴、移籍金などポイント制にして、プレアミアリーグでプレーする選手の労働ビザ発給条件を設けています(南野拓実、冨安健洋が該当)。オランダは20歳以上の非EU圏の外国人選手は最低年俸4000万ユーロ(約5100万円)と設定しています(堂安律、菅原由勢が該当)。つまり、レベルの高い外国人選手しかプレーを認めさせない、という環境を作っています。

「プレミアリーグでは代表クラスの中で、さらに条件を設けていますね。一方、ドイツは外国籍選手は無制限で、自国とホームグロウン枠を整備しています。ベルギーも自国出身8人、メンバー入り6人以上と定められてきました。何をまず優先するか、になってくるのではないでしょうか。とはいえ欧州は『EU圏』であるため、単純にそのまま日本にはめ込む難しさはあります」

――新型コロナウイルスの影響もあり、この2年以上、日本のみならず特に外国人選手獲得のマーケット自体が読めない状況が続きました。

「そこに労働ビザ発給の問題なども絡み、どうしても安全な補強になりがちな傾向はありましたね」

ACLの秋春制変更は「政治的な問題」も絡む。

――その外国籍選手の獲得に関して言うと、「春秋制」か「秋春制」かの議論にもつながってきます。ACLのスケジュールが2023年から「秋春制」になるため、Jリーグもそれに合わせるべきでは? という声が挙がっています。ただ欧州と移籍マーケットの時期が重なれば、そこで競うためのメリットとデメリットが生じます。「秋春制」議論の課題は多岐にわたるため、そのマーケットに絞って話を聞かせてください。AFC(アジアサッカー連盟)はこのシーズン移行について、マーケットを欧州と同時期にして世界との高いレベルで競争するため、と謳っています。

「むしろACLの日程変更は政治的な問題でもありました。東側の中国がサッカーのスポンサーにつかなくなり、逆に西側があらゆる面でのパワーを今持っています。そこで有無を言わさず決定された一面はあります。だからと言って、すぐ日本もカレンダーを合わせるべきだとは言えません。それこそ議論していけば良いと思います」

昨季浦和に加入したユンカー。Jリーグと同じ「春秋制」のノルウェーリーグでプレーしていたことが、メリットに働いた一例だ(写真は昨年12月の天皇杯決勝より)。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

――現在、日本は移籍マーケットの時期が世界とズレていることで、同じ「春秋制」の南米や北欧から選手を獲得しやすい傾向にありました。

「結局、メリットとデメリットがあります。日本人選手が欧州に移籍する場合、すぐチームに合流できるので活躍できたケースもあれば、この日程が選手の負担になっている面もあります。また現在日本は学校の卒業に合わせたカレンダーになっていて、それをどうにかして(例えば、夏にプロ契約解禁など)全て欧州のカレンダーに合わせた場合、有望な若い選手ほど欧州に行ってしまう可能性も否定できません。代表チームとの兼ね合いがあるとはいえ、決定するのはリーグです。だから、日程に関しては単純な話ではありません」

――ACLの外国籍選手枠は「5人+アジア1枠」に拡大されます。

「中東ではいい外国籍選手が増えています。ただ、その枠は日本も要望していた一つで、一時期は中国もいい外国籍選手を揃えていました。そうした世界の流れで決定したところはあります」

――今後にもつながる興味深い話をありがとうございました。原さんご自身は今後の活動について、何か決められているのでしょうか?

「(日本サッカー)協会で7年、Jリーグで6年、ずっと緊張感を伴いながら集中してやってきました。Jリーグ副理事長の任期である15日まで全力で務め、今後のことはそのあと考えます。近年は常にJリーグの会場へ足を運んできたので、例えば大学リーグ、JFL、WEリーグ、高円宮杯など、いろいろなサッカーを見たいかなとは思っています。あとは『Jリーグジャッジリプレイ』への出演はどうしましょうか。Jリーグおじさんとして、出続けていいのかな?」

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[取材・文:塚越始]

Posted by 塚越始

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