【指導者の視点】布陣変更の「タイミング」が逆転を生む。結果論だが、修正が早かったら分からない│W杯 日本代表-ドイツ代表

“待つ”判断を下したのであれば、森保監督は勝負師。

[カタールW杯 E組 第1戦] ドイツ代表 1–2 日本代表／2022年11月23日16:00（日本時間22:00）／ハリーファ国際スタジアム

　日本代表は前半シュート１本対13本と一方的にドイツ代表に攻められながらも後半に戦術を修正し、今度は10本のシュートを放ち、途中出場の堂安律、浅野拓磨のゴールで2-1の白星を手中に収めた。

　逆転勝利を手繰り寄せた後半開始からのシステム変更。そのタイミングが、一つ大きなポイントだった。

　前半の日本の狙いは明確だった。基本は4-2-3-1、守備時は4-4-2になるシステムで、中盤から高い位置でボールを奪い、ショートカウンターやミドルカウンターでゴールに向かおうとした。すると前田大然のオフサイドによる幻ゴールなど数回チャンス（になりかけた場面）を作った。

　しかしドイツはすぐ日本のプレスに対応。日本と同じ4-2-3-1だが、攻撃時に左サイドバックのラウムが高い位置をとる3-2-4-1（3-2-2-3）に変化。このシステムは「対4-4-2」に効果的で、ドイツの３バック（特に左CBのシュロッターベック）が数的優位を作り、伊東純也のいる右サイドを押し込み、容易に前進してきた。

　日本の最終ラインと中盤の間で、ムジアラとミュラーが効果的にフリーでボールを受ける回数が増加。日本は自陣に釘付けにされ、権田修一のファウルで与えたPKをギュンドアンに決められ、その後も攻め込まれた。

　しかも日本はFWも守備に加わって攻撃の起点を作れない。なおかつ相手ゴールから遠ざかってしまう。カウンターを発動させるシーンはほぼなく、1失点で抑えられたのが幸運という内容で前半を終えた。

　後半のスタートから、森保一監督は３バック（3-4-2-1）に変更し、システム上の問題点を改善。相手３バックに対し、日本の１トップ・２シャドーが同数でプレッシングに行けるようになる。また相手の「4」にあたるライン間の選手がボールを持てば、３バックの余った選手が思い切ってアタックへ行けるようになった。

　結果、いわゆるハマった状況を作り出せたのだ（かなりリスクを負った守備ではあったが）。“良い守備”から“良い攻撃”につなげる回数が増え、ゲームの流れを引き寄せられた。

　注目はシステム変更したタイミングだ。“後半のスタートまでシステム変更しなかった”ことが、逆転勝利につなげたポイントに挙げられる。

　前半あれだけ機能せず押し込まれ、決定機を作られ続ければ、すぐ修正したくなるものだ（もちろんすぐ修正するメリットはあり、ドイツに２点目を決められていれば逆転することはかなり厳しかった）。

　一方、試合途中で修正するデメリットとして、ハーフタイムに相手に細かく対策を立てられてしまうことが挙げられる。日本は0-1で折り返し、15分間のハーフタイムを生かし、どのようにゴールを奪うか――その策をベンチ含め全員で共有。頭を整理したうえで後半に向かえた。

　結果論だが、後半ドイツは日本の3-4-2-1に対し、もう一度主導権を握る修正を施せなかった。特に１失点したあとのプラン（決勝点を強引にでも奪うのか、同点でもOKとするのか……）が曖昧になり、間延びもしていった。

　ゲームは一瞬で動く。むしろ試合が進むなか、ピッチレベルですぐ（全員の意識を共有させて）修正することがいかに難しいかを改めて考えさせられた。

　どこまで意図してハーフタイムまで修正しなかったのか、それは現場にしか分からない。いろいろな意見や考えがあり、しかも大きなプレッシャーがかかるなか、森保監督が“待つ”決断をしたのであれば、それはまさに勝負師であったと言える。

　いずれにせよ、ハリーファ国際スタジアムでのハーフタイム――。その15分間が日本代表の勝利へのターニングポイントになったのは間違いない。

【著者プロフィール】
佐川祐樹（さがわゆうき）／1992年4月25日生まれ、広島県出身。広島大学大学院時に指導者キャリアをスタート。広島皆実高校サッカー部コーチ、広島修道大学サッカー部監督を経て、2018〜2020シーズンの３年間、FC今治のU-14コーチを担当。元日本代表監督でFC今治オーナーの岡田武史氏から「OKADA Method」を学び、原理原則やプレーモデルを大切にする育成法を学ぶ。現在は、山口市役所で勤務しながら山口県のサッカーに携わっている。

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