【コラム】香川の「控え」だったレヴァンドフスキ。二人が火花を散らしたダービー
レヴァンドフスキ(左)と香川(右)がW杯で激突!写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
二人は日本的には同学年。さらにピシュチェク、ブワシュチコフスキ…ドルトムント黄金期を築いた盟友が再会へ。
[ロシアW杯 グループH] 日本 – ポーランド/2018年6月28日 日本時間23:00/ボルゴグラード
ポーランド代表の史上最高のストライカーと称されるロベルト・レヴァンドフスキが、快進撃を続ける日本代表の前に立ちはだかるのか――。
所属のバイエルン・ミュンヘンでは2017-18シーズンに30試合29ゴールを決め(昨季と2シーズン前は30得点)、通算三度目の得点王に輝き、前人未踏のチーム6連覇の偉業に大きく貢献した。
記者はその数字だけでは計り知れない凄さに衝撃を受けた一人だ。185センチ、79キロと高さと強さを兼ね備えながら、後ろから飛んでくるロングフィードを前を向いたままトップスピードに乗り、伸ばした右足の甲でピタッとトラップする。そんな「半端ないプレー」を昨季のUEFA欧州チャンピオンズリーグのセルティック戦(スコアは3-0)で目撃した。ワンプレー(トラップ)でDF陣を取り残し、冷静にゴールも沈めた。
現在の世界最高のストライカーの一人であることを、そういったパフォーマンスでも実証してみせた。
そんなレヴァンドフスキは2010年、21歳にしてポーランドリーグのレフ・ポズナンからボルシア・ドルトムントへ移籍してきた。セレッソ大阪から加入した香川真司と同期入団だ。しかもレヴァンドフスキは88年8月21日生まれ、香川は89年3月17日生まれで、日本的に言えば同学年にあたる。
当初ドイツの環境に馴染むまでに時間が掛かるだろうとフロントスタッフから言われていた香川だが、ユルゲン・クロップ監督のもと、プレシーズンから活躍すると、トップ下としてリーグ開幕スタメンの座を獲得。自身も勢いに乗り、チームをスタートダッシュに導いた。
一方、レヴァンドフスキはベンチ要員だった。パラグアイ代表FWルーカス・バリオスがCFとして君臨し、トップ下に香川がフィットしたことにより、4-2-3-1が基本システムで固まる。そのためレヴァンドフスキは二人の控えという扱いで、2010年の間は香川と交代出場する機会が多かった。
2010年9月19日ブンデスリーガ4節、ドイツで最も熱く盛り上がるシャルケ04対ドルトムントのルールダービー(レヴィアダービー)で、二人は”極上”の派手な火花を散らしている。
前節1ゴールを決めるなどトップ下でリーグ4試合連続スタメン出場を果たした香川は、この日もCFバリオス、右MFマリオ・ゲッツェ、左MFケヴィン・グロスクロイツという役者の特長を引き出しつつ、自らも鋭い切り返しからシャルケゴールを脅かす。すると敵地フェルティンスアレナで、DF3人を揺さぶって左足を振り抜き1点目、さらにブワシュチコフスキ(愛称クバ、W杯ポーランド代表)のクロスにボレーで合わせて2点目――。若き日の現ドイツ代表守護神マヌエル・ノイアーの壁を突き破った。
超満員8万720人が埋めた熱狂のダービーでの2ゴール。「KAGAWA」の名前がドイツ中に知られる機会となった。ケガのためスタンドから観戦していたシャルケの内田篤人も「交代するとき、シャルケのサポーターもスタンディングオベーションしていた。真司、やりすぎだよ」と語っていたほどだ。
一方、74分に香川と代わって途中出場したレヴァンドフスキにとっても、記念すべき日となる。シャルケに退場者が出て、ドルトムントの勝利が確実になるなか、ヌリ・シャヒンのCKに高い打点のヘッドで合わせてゴールを奪取。これが嬉しいブンデスリーガ初ゴールとなる。レヴァンドフスキが子供のように無邪気に歓喜していた姿がとても印象的だった。
ただ、年を挟むと二人の立場は逆転する。シーズン終盤に差し掛かった2011年1月、アジアカップに日本代表として出場していた香川は、右足小指付け根を骨折。ドルトムントにとっても痛手となる長期離脱を余儀なくされたのだ。
そこでレヴァンドフスキは香川に代わって、トップ下やCFの先発を務める。若きポテンシャルの塊は香川とは異なるパワーとスピードを生かして攻撃を牽引。こうしてドルトムントはチーム力を落とすことなく首位を快走し、10-11シーズンのブンデスリーガ優勝を果たした。香川も最終節に辛うじて復帰を果たしてみせた。
翌シーズン、バリオスが故障したため、レヴァンドフスキが開幕からCFの座を掴む。「レヴァンドフスキ―香川」という新ホットラインが確立され、リーグ連覇&DFBカップとの2冠を達成する。レヴァンドフスキは33試合22得点10アシスト、香川は31試合13得点12アシストという、いずれも凄まじい記録を残している。
良き仲間であり、良きライバル。ドルトムント時代はそれを絵に描いたようなコンビを形成した。そこから香川はマンチェスターユナイテッド、レヴァンドフスキは(14年に)バイエルンへと、それぞれメガクラブに移籍していった。
現在は再びブンデスリーガを舞台に戦う二人。果たしてW杯の舞台で顔を合わせることはあるのか。また、当時ドルトムントに所属していたブワシュチコフスキに加え、右SBウカシュ・ピシュチェクもポーランド代表に選ばれている。黄金期を築いた盟友がどんな表情で邂逅し、ピッチ上でどのようなバトルや駆け引きを見せてくれるのか。香川とレヴァンドフスキ、そしてポーランド代表の元チームメイト――特別な絆がロシアで再びつながる。
文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI