「世界との『差』」なのか『違い』か。浦和レッズの林コーチ「そこに優劣はない」
横浜F・マリノス戦に臨んだマンチェスター・シティのハーランド。 (Photo by Koji Watanabe/Getty Images)
Jリーグ発行の『テクニカルレポート』のコラムで。
Jリーグはこのほど、今夏にJクラブがヨーロッパの強豪クラブと対戦した試合のデータを分析したリポート『J.LEAGUE TECHNICAL REPORT 2023 SUMMER』を発行した。横浜F・マリノス 対 マンチェスター・シティ、川崎フロンターレ 対 バイエルン・ミュンヘンなどを様々なデータから解析している。
ただし欧州のシーズンが動き出して間もない新チームによるプレシーズンマッチであり、しかも対戦相手はハーフタイムに(あるいは後半途中までには)メンバーのほぼ全員を入れ替え、若手や新戦力、様々な組み合わせをテストしている。例えばシティのエースストライカーであるアーリング・ハーランドがいるかいないかだけでもチームの戦い方は大きく変わった。
このリポート内でも指摘されているが、このシチュエーションによるデータで「世界との差」を語るのは難しく、やや説得力を欠く内容となっている。(例えば、ハーランドやセルジュ・ニャブリの全マッチアップを解析したら、勝率10割かそれに近い日本人選手がいたりして、ファンにとって興味深い統計になっていたかもしれない)。
そのなかで浦和レッズのコーチ兼分析担当である林舞輝氏がコラムを掲載している。そこで「世界との差」というフレーズへの違和感について、自身の見解を伝えている。そのうえで、「ナショナルチーム、リーグ、サッカー文化など、全ての分野で何かと他国と比較することが多々ある中で『差』と『違い』を見分けることも、また事実である」として、(世界との)「違い」に言及している。
カタール・ワールドカップ(W杯)のグループステージ、日本代表は2-1でスペイン代表に勝利を収めた。林氏はそこでの『三笘の1ミリ』に触れる。
「スペインの選手は、堂安のクロスボールが転がっている途中でもう足を止めて手を挙げてオフサイドをアピールしていた。
日本は、三笘が諦めずに追って極限まで足を伸ばし、中には三笘が折り返すことを信じて(手を挙げているスペインの選手を置き去りにして)仲間が詰めていた。
これは逆の見方をすれば、スペインにとってワールドカップで直面した『世界との差』になり得るのかもしれない。では、この差を縮めるために『ボールが外に出るまで最後までボールを追う』『仲間を信じる』ことがスペインサッカーの今後の方針になるのだろうか。
日本はスペインのように華麗に永遠とボールを回し続けることはできなかったが、スペインもまた日本のように誰一人として一瞬たりともサボったり集中を切らしたりすることのない粘り強く我慢強い守備はできなかった。
これは果たして、優劣があり上と下に分けられる『差』と受け止めるべきなのだろうか。それともこれは、日本とスペインの『違い』なのだろうか。赤と青は異なるカラーだが、赤の方が上とか下とか、そこに優劣があるわけではない」
そのように林氏は持論を記している。
差を埋める、というのは重要だ。ただし、そこで語られる全てが「差」ではなく「違い」もある。そして、そこには優越も、上下もなく、認めていくもの(そこに対策を打つ)ではないかと、見解を示している。
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人も、チームも、それぞれに強みや特徴がある。それを有していない者からすれば「差」と言えるかもしれない。ただ、見方によっては「違い」であり、それを理解する、受け入れる……そういった視座の大切さを気付かせてくれる内容となっている。