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「課題はたくさん」有吉佐織は『なでしこのラーム』になれるか?

4か国対抗でボランチに挑んだ、なでしこジャパンの有吉佐織。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

強豪2チームにボランチ挑戦。「サイドバックと両方にチャレンジしていきたい」

 なでしこジャパン(日本女子代表)の有吉佐織(日テレ・ベレーザ)が8月3日までアメリカで開催された4か国対抗「トーナメント・オブ・ネーションズ」で、アメリカ戦(●2-4)とオーストラリア戦(●0-2)でボランチとして先発し、ボール奪取やバランサーの役割を担った。ボランチの阪口夢穂、猶本光らが不在の中、2年前から高倉麻子監督が構想していた起用が実現。とはいえ強豪にいずれも敗れた(チームは3戦全敗)とあって、有吉も「収穫もあったが、課題がたくさん」と唇を噛み締め振り返った。

「(オーストラリア戦について)前半は積極的な守備ができて、チャンスで決め切れていれば……。後半最初のセットプレーで決められ、焦らず展開していこうという話はしましたが、あっけないミスからの失点は勿体なく、それで結果的に負けているようでは来年のW杯は勝てない。そういうところを見つめ直し次につなげたいです」

 全日程を終えたあと、有吉はそのように厳しい表情で振り返った。

 高倉監督からボランチ挑戦を打診されたのは、2016年だった。しかし年明け3月の日本女子代表のポルトガル遠征で右ヒザ前十字靭帯を損傷したため構想は頓挫。有吉も復帰までほぼ1年がかかった。そして年明けの代表合宿から復帰を果たし、今回の「代表ボランチデビュー」を迎えた。

「練習の中で監督からチャレンジしてほしいと言われ、今回初めてプレーしました。初戦のアメリカ戦は手探りでやっていて、オーストラリア戦では守備面を少し修正できました。それでも90分戦うなかで、時間帯や状況に応じて、自分たちがボールを持ったときに課題を残しました。

 一人ひとり選手間で話し合ったり、意見を交わしたり、そのなかで前からボールを奪おうと確認できて、ボランチのところで上手くボールを引っ掛けて攻撃につなげるチャンスはありました。速攻でシュートまで持っていくのか、押し込んだあとにビルドアップしていくのか、そこの判断は課題。その質を上げていければ、自分たちの時間帯が増えて、よりチャンスが作れると感じました」

 2010年からプレーする日テレ・ベレーザではサイドバックを主戦場にしてきた。ただ高倉監督は、スピードや身体能力の高いタレントをサイドに置いてくる強豪国に対し、日本もバイタリティ溢れる選手を当てて、テクニックとボール奪取力に加えチーム全体を俯瞰する能力がある有吉に、チームの中央で”バランサー”を任せたいという狙いだ。

「課題はたくさん。状況判断だったり、(求められる)『らしさ』をまだ出せなったり、ボールを持ったときだったり、ポジショニングだったり……もっと質を上げていく必要性を感じました。状況に応じて判断できてる強いチームにしていかなければならない。そういったところを一戦ずつ積み上げていきたいと思います」

 何より課題に感じたのが、「ボールを奪ったあとの質。そこにもっとこだわっていきたい」だった。

 今後のボランチ挑戦について、有吉は「学生の頃以来でした。チームではもちろんサイドバックではやりますけれど、代表でもボランチで要求されるのであれば、少し意識していきたいです」と控え目に言った。

 高倉監督とは改めて話し合うそうだが、「今回2試合やって出た課題は大きかったです。アメリカ、オーストラリアというレベルの高い強豪と戦えて、そこがベースとなり、所属は所属先、代表は代表で、来年のW杯にも臨めるように、ボランチとサイドバック、どちらでもチャレンジしていきたいです」と語った。

「試合中もこれでいいかと何回も前にも後ろにも確認をとっていました」と言う30歳を迎えての新境地。有吉が得たものは多く(試合直後はまだ整理しきれていないこともあったようだが)、それをどのようにしてチームへアウトプットしようか考えを巡らせていた。

 サイドバックとボランチの兼務と言えば――フィリップ・ラームが真っ先に思い浮かぶ。ドイツ代表とバイエルン・ミュンヘンで両ポジションを遜色なくこなし、守から攻への切り替えの「起点役」として重宝された。

 8月16日にインドネシアで開幕するアジア大会では、「DF」で登録された。先の大会とは相手チームの特長が異なる、アジアの舞台での起用法が注目される。

 果たして有吉は、「なでしこのラーム」になれるのか。とても楽しみな挑戦だ。

文:サカノワ編集グループ

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