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【ドイツ現地取材】バイエルンの21歳至宝ムジアラが突き抜けていく幾つもの瞬間に遭遇。スーパーアシスト、ハットトリック、強力トライアングルによるCL決勝ゴール…

バイエルンの21歳、ドイツ代表MFムジアラ。 (Photo by Alexander Hassenstein/Getty Images)

4試合連続で取材するなか5ゴールを記録。1戦ごとにブレイクスルーを遂げていった。

 ドイツ滞在中、王座奪回を目指すバイエルン・ミュンヘンを4試合連続で取材する機会を得られた。その目の前で、弱冠21歳になるドイツ代表の至宝ヤマル・ムジアラ(Jamal MUSIALA)が、まさにスターダムへと突き抜けていく。その幾つものブレイクスルーを遂げていく瞬間に遭遇した。

10/27(日)ブンデスリーガ9節
VFLボーフム戦
アウェー/〇5-0
※ムジアラ 1得点・1アシスト

10/30(水)DFBカップ
1.FSVマインツ05戦
アウェー/〇4-0
※ムジアラ 3得点

11/2(土)ブンデスリーガ10節
ウニオン・ベルリン戦
ホーム/〇3-0

11/6(水)UEFA欧州チャンピオンズリーグ(CL)
ベンフィカ・リスボン戦
ホーム/〇1-0
※ムジアラ 1得点

 最下位とはいえ天敵であるアウェーのボーフム戦、その直前にCLでFCバルセロナにCLで敗れていたバイエルンは、途中まで比較的慎重に試合へ入り、決定機も作られた。だが12分にボーフムへ最初のイエローカードが出ると、ここぞとばかりに畳みかけ、16分、ミカエル・オリーズが先制点を決める。

 監督解任のショック療法で反発したかった三好康児の所属するボーフムだが、そこからは順位表の成績がピッチで示されるかのように、首位バイエルンの練習試合のようなワンサイドゲームになる。手を抜かないバイエルンは個々がそれぞれの特長を発揮し、「これが俺の強みだ!」と見せ付けるように、ことごとくゴールへとつなげていった。

 26分、ヨシュア・キミッヒのクロスからムジアラが決める。

 そして圧巻は56分だった。

 ムジアラが持ち上がり相手を引き寄せ、絶妙のタイミングでスルーパスを放つ。これを受けたエースストライカーのハリー・ケインは左足で、狙い澄ました左上部のゴールネットへ突き刺してみせた。

 ホットラインがより強固になっていく。そんな絆を深めた崩しだった。

 続くマインツ戦では、奮闘している佐野海舟らマインツ守備陣をより素早いテンポと高精度のパスで翻弄。ムジアラは自身プロキャリア初のハットトリックを前半のみで達成した。

 1点目は開始早々2分、アルフォンソ・デイビスの左サイドの崩しからケインの落としを受けると、DF陣をかわして沈めてみせた。2点目はケインのヘディングによる跳ね返りを、頭で押し込む。そして前半アディショナルタイム、右サイドからの崩しで混戦となり押し込んで3点目! 自分でも驚いたようにはしゃいで歓喜し、喜びのダンスを披露すると、相手サポーターの前だったので、かなりの量の怒りのビールが投げ込まれていた。

 先制点の位置取りは絶妙だった。佐野やマインツの選手たちがちょうど「寄せに行くべきか?」と戸惑うようなポジション取りをしながら、そこでボールを受けた時点で”勝負あり”という駆け引きを見せていた。

 対峙した佐野は「全員が最後のところで判断を変えられて、その最初のポジショニングのところで勝負を決められた感がありました」「全てにおいてレベルの差を感じました」と、まざまざと個と組織の力の差を見せ付けられていた。

 CLのベンフィカ戦。ポルトガル3位の強豪との白熱の打ち合いが期待されたのだが、意外にもアウェーチームはほぼ全員で守備を固めてカウンターを狙う戦い方を選択する。バイエルンは苦手とする速攻を警戒しつつも、主導権を握り続けた。

 攻め続けたホームのバイエルンは、特に交代出場した『10番』レロイ・ザネが異彩を放ち、左サイドから再三にわたり攻略していく。そして67分、右SBコンラート・ライマーを起点としたパスから、ザネの右クロスをケインが競り勝ってジャンプヘッドで折り返し、そこに駆け込んだムジアラが頭で叩き込み、これが決勝点になった。

 ザネ→ケイン→ムジアラというトライアングルが美しく共鳴した。強力なタレント3人が揃えば得点できてしまう、そんなセオリーを見せ付けられた理想のゴールだった。

 CLでは自身今季初ゴールに。ムジアラの2024-25シーズン、これまでの公式戦は通算13試合・8得点・4アシストを記録している。チームもリーグ首位に立ち、とても理想的なスタートを切っている。

 2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)では、19歳にしてドイツ代表に選ばれ日本代表戦にも先発。ただ79分の交代後にチームは堂安律に決勝点を決められた(2023年9月にドイツが日本に1-4で敗れた親善試合は招集外)。

 現地メディアによると、2026年6月までバイエルンと結んでいる契約は、基本的に延長する方向だと報じられている。バイエルンととも欧州一、世界王者へ、という野望も強く抱いている。

 ゴールに直結する働き――。明確にそこへ意識を置くアタッカーは、あらゆる形から得点に絡み、バイエルン復権に向けた重要なキーパーソンとしてフル稼働している。と同時にドイツサッカー界の新たな時代の象徴の一人であり、このニュースターが新時代到来への希望の光をもたらしている。

 トーマス・ミュラー、マヌエル・ノイアー、そしてケインといったドイツ代表、イングランド代表の“大先輩”に囲まれて(守られて)、彼らもまだまだ負けられないと言わんばかりに切磋琢磨し、互いの才能の最大値を引き出し合おうとしている。そんなバイエルンの脈々と続く伝統に裏打ちされた新世代への継承も感じられる

 ムジアラの衝撃。その急加速な進化を目の当たりにできたのは僥倖だった。もちろんドイツでも”若きスーパースター”がその進化の道から外れてしまうケースも少なくない。ただ、この21歳は(アルフォンソ・デイビスとともに)突き抜け具合はハンパなく、さらに大きな巨星となって、もっと強烈な光を放つ。そんな日が来るのは、そう遠くないのかもしれない。

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 ※育成年代はイングランド代表だったため「ジャマル・ムシアラ」の表記が日本では多いですが、ドイツではドイツ語読み「ヤマル・ムジアラ」(あるいはミュージアラ、ミュジアラ)が一般的です。

取材・文/塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI

Posted by 塚越始