×

【インタビュー#3】WEリーグ岡島喜久子チェアが語るコロナ禍の新時代へゼロからの出発「『既存の価値観に捉われない』私をどんどん使っていきたい」

2011年、世界一になったなでしこジャパン(日本女子代表)。今後は当時を知らない世代にWEリーグが、女子サッカーの魅力を伝えていく役目も担っていく。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

「ゼロから始まる新しいステージの提供。そこに価値を見出してもらいたい」

 来秋の開幕が決定した日本女子プロサッカーリーグ、WEリーグ(Women Empowerment League)の初代チェア岡島喜久子氏のインタビューシリーズ最終回(3回連載)は、女子サッカープロ化による展望、可能性について語ってもらった。

 岡島チェアは懐かしそうに振り返る。

「日本女子サッカーリーグが『Lリーグ』と呼ばれる時代に入った1990年代、各国代表クラスの外国人選手が日本でたくさんプレーしていました。その効果は絶大で、急激な角度で日本人選手の技術が上がった気がします」

 しかし世界のトップレベルと言われたLリーグだが、その後ヨーロッパ各国のリーグ設立が進み、女子サッカー選手の市場はヨーロッパやアメリカに移ってしまった。

 現在のなでしこリーグに、欧米系の代表クラスの選手は在籍していない。

 しかも、なでしこジャパンで活躍する選手は国際試合でレベルの差を体感し、海外でのプレーを選択していく循環もできつつある。

「外国人選手をWEリーグのクラブが獲得できれば、サッカーのレベルは全体的に上がっていきます。それがなでしこジャパンの底上げにもなりますし、必然的に集客にもつながっていくはずです」

 WEリーグは、日本の治安の良さ、整ったサッカー環境、安定したサラリーという“売り”を最大限に活かし、外国人選手の獲得にも力を入れるという。岡島チェアは語る。

「日本でのプレー経験のある元選手たちも力を貸してくれると言ってくれています。また、アメリカは非常に選手層が厚い。ほとんどの大学で体育会レベルのサッカーチームがあるなかでプロリーグに行けるのは年間30から40人ほどです。当然、かなりレベルの高い大学生選手でもプロに進めない。そこからも評価の高い選手を探せる可能性はあります。WEリーグが交渉してドラフトをするなど、いろいろな形を模索しています」

 選手に止まらず、海外の指導者の受け入れにも目を向ける。

 2011年のドイツ女子ワールドカップ(W杯)で日本が世界一になって以降、日本の女子サッカーの取り組みは海外からも一目置かれてきた。献身的なプレーと個性、戦術眼のチームへの落とし込み。それらがどのように構築されているのか。日本の環境下で指揮をしてみたいと思う指導者は少なくない。

「日本はU-17、U-20のアンダーカテゴリーでも世界一になるなど、若い世代の育成が上手くいっています。トレーニングの仕組み、選手の養成面で世界中の指導者が興味を持っているという声が聞かれます。選手も、指導者も、自分の力でファン・サポーターを集める! という気概のある人に来てもらいたい。ゼロから始まる新しいステージを提供できることはなかなかありません。そこに価値を見出してもらいたいです」

 また、選手のパフォーマンスなど「生体データ」の活用も検討する。そういったプロ選手の活動から、企業や研究機関と商品の共同開発をしていくことも視野に入れる。

「サプリなどはドーピングの問題があるので難しいですが、食事で筋力をつける、生活リズムを作っていくというアプローチはできます。WEリーグをスポンサードしていることで女性のリクルートにつながるというメリットも生まれるかもしれません」

 実際、日本テニス協会は花王株式会社とスポンサー契約を結び、暑熱対策の一つとして女子選手たちの必需品である日焼け止め商品などを提供。パフォーマンス向上に一役買っているという話もある。

 女性アスリートの生体データ分析について、日本は発展途上と言われ、興味を持つ企業や研究機関も多く、正式な契約締結を目指していく。そこは岡島チェアの交渉力の見せどころでもある。

 時は新型コロナウイルス禍である。多くの企業が苦境に立たされるが、岡島チェアはきっとチャンスもあると捉える。

「コロナの影響で資金がないからスポンサーが見つからない、というのではなく、こういう状況だからこそ、新たな、これまでとは違う価値が生まれてくるはずです。これをチャンスと思わなければなりません」

 女子サッカーのプロ化に向けては、観客動員、興行力、選手・スタッフの(プロ)意識、練習場・クラブハウスなどの環境、自立運営のための資金繰り……抱える課題は多い。

 それでも、岡島チェアのバイタリティがあれば突破口が開かれるのではないかと思えてしまう。高校1年生の時、「女子の代表チームを作る」と言って行動に移し、実現させたバイタリティが、今度は一段と広い世界で生きようとしている。

 彼女のなかに秘めた潔さが、共振を生み出す予感がする。

「30年も日本に住んでいない私はもう外国人のようでもあります。振り切った提案をしたとしても『あの人、日本に住んでないからしょうがない、ちょっと非常識』と思ってもらえないかなと(笑)。“今までの(日本の)価値観に捉われない私”という部分は、どんどん使っていきたいと思います」

 新時代の荒波への挑戦、そこに伴う重大な責務。ただ、そう言って笑う岡島チェアは、どこかワクワクしていて楽しげだった。

WEリーグの初代チェアに就任した岡島喜久子氏。写真提供 WEリーグ/(C)WE LEAGUE

【INTERVIEW WEリーグ岡島喜久子チェア】
・【#1】出発点:高1で行動に移した「代表チームを作る」

・【#2】WEリーグチェア就任へ:「対話を重視、そこに気付きがある」

[取材・文:早草紀子]