「それでは間に合わない」引退する加地亮が語っていたFC東京時代、石川直宏とのサイドアタックの絶妙な呼吸
日本代表でも活躍した加地。FC東京では同じく今季限りで引退する石川とのサイドアタックでファンを魅了した。写真:徳原隆元
鍵はボランチ宮沢正史にボールが入る瞬間。
今季限りでの引退を決断したファジアーノ岡山の加地亮は以前、FC東京時代に右サイドの強力ユニットを結成していた石川直宏との”呼吸”について、とても興味深いことを語っていた。
2002年シーズン、原博実監督の就任したFC東京に、加地が大分トリニータから完全移籍、開幕直後に石川が横浜F・マリノスからレンタルで加入。「サイドバックとしてのセンスや運動量は抜群だが、後方から味方を助ける声が足りない」と原博実監督から言われ、加地は開幕直後、小林稔(現・ジュビロ磐田コーチ)にレギュラーの座を譲っていた。
そういった課題を克服していくなか、FC東京は強豪チームにも勝つなど成長を遂げる。そして夏場から右サイドの中盤に石川、最終ラインに加地がレギュラーとして定着し、ふたりは連係を深めていく。高速のドリブル突破を武器とする石川の外側を、さらに加地が追い抜いてオーバーラップを仕掛ける――。
鋭い二枚刃のサイドアタックから、FC東京は数多くのゴールを生んでいった。
加地は石川とのその攻撃について、こんなことを語っていた。鍵を握っていたのは、ボランチで司令塔を務めた宮沢正史(現・FC東京コーチ)との関係だった。
――あのサイドアタックを実現するためには、例えばサイドチェンジで石川選手がパスを受けた瞬間、加地選手もすぐ飛び出しているんですか?
「それでは遅いですね」
――というと?
「(左サイドから)ミヤさん(宮沢)にボールが入った瞬間です。そこで動き出さないと間に合いません」
――感じて動き出すと?
「そう。ミヤさんからナオにボールが入るなと思ったら、もう準備をしていなければ、あのスピードを持つナオには追い付けませんし、フォローもオーバーラップもできませんから」
もちろん、それでボールが来なくても、自陣に戻って守備に回ることになっても、加地は一切文句は言わない。一世を風靡したFC東京のサイドアタック。それは加地の献身的なフォローがあってこそ実現していた。それを実現していたのは日本代表のレギュラーにも上り詰めた感覚と、加地らしい気配りだった。
文:サカノワ編集グループ