皇后杯制覇、「キャプテンってキャラじゃない」村松智子が辿り着いた日本一の戴冠劇。伝わってきた“ベレーザの覚悟”
喜びを爆発させるベレーザの村松智子。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
リハビリ期間をともに過ごした「(小林)理歌子と『絶対に一緒にタイトルを獲る!』と約束してきたんです。やっと叶いました。日本一の景色? 絶景でした!」。
[皇后杯 決勝] 日テレ・東京Vベレーザ 4–0 INAC神戸/2023年1月28日15:00/ヨドコウ桜スタジアム
皇后杯決勝、試合終了の笛が鳴った瞬間、日テレ・東京ヴェルディベレーザの選手たちは喜びを爆発させた。
なでしこリーグ最後の2020シーズンも、WEリーグ最初の2021-22シーズンも、常勝軍団はタイトルを逃してきた。今季のWEリーグカップ決勝では三菱重工浦和レッズレディースに3点リードしながら、ラスト15分でまさかの3失点を喫してPK戦の末に敗れた。
その敗戦が皇后杯ファイナル、INAC神戸レオネッサ戦後の彼女たちの歓喜と涙につながっていった。
「1週間前から緊張していました」(植木理子)
「3点取っても安心できなくて、4点目が入ってやっともう大丈夫かなと思えました」(岩清水梓)
「タイトルを獲る難しさを感じた1年でした」(宮川麻都)
それぞれが必勝を誓ったなか、最終ラインでINAC神戸の強力な攻撃に対し、体を張って止めていったのがキャプテンの村松智子だった。
村松は高いポテンシャルを持ちながら、貴重な20代前半のほとんどをリハビリに費やしてきた。サッカーの道を自ら閉ざすことも考えたが、「サッカーができるだけでも十分」という域までメンタルも達して這い上がってきた。
その後、見事ピッチに戻り、今シーズンはキャプテンマークを巻いて、個性溢れるタレント集団を支えている。
一緒に最終ラインを守る岩清水からはセンターバックの矜持を学んできた。この日の二人は信頼をベースに、一人がボールホルダーに行けばもう一人がカバーリングへと阿吽の呼吸で回り、ポジショニング、マークの細かい指示も切らさず伝え続けて無失点勝利をもたらした。
「とはいっても、(キャプテンという)キャラじゃないんです」
村松本人がそう語るように“キャプテンシー”を発揮するタイプではない。それでも、彼女がいてこそ優勝できたと言って過言ではないパフォーマンスと高い貢献だった。
試合直前の円陣、村松を中心にこんなシーンがあった。
「(円陣で)気持ちが高まり過ぎて、そのまま喋ったら泣いてしまいそうでヤバかったんで、一回ちょっと大声を出させてもらって気持ちを落ち着かせたんです。そしてふと隣を見たら(宮川)麻都がしっかり泣いていました(笑)」
分け隔てなくチーム全体を盛り立てていくのが村松流。その背中を岩清水や宇津木留美らベテラン選手がしっかりと押していて、バランスも絶妙だ。
ピッチでは長いリハビリ期間を互いに励まし合った小林里歌子がゴールを決めると、村松は自分のことのように笑顔を見せ喜んだ。
試合終了の直後、途中交代してベンチにいた小林は一目散に、村松のもとへ向かった。
村松は「理歌子とは『絶対に一緒にタイトルを獲る!』と約束してきたんです。やっと叶いました。日本一の景色? 絶景でした!」と喜んだ。
常勝軍団としての自負、プライド、伝統、プレッシャー、その全てを力に変えられる者だけがこの緑のユニフォームをまとえる。村松をはじめ、選手全員が持つ“ベレーザの覚悟”が伝わってくる皇后杯での戦いぶり、そして最高の戴冠劇だった。
[取材・文・写真:早草紀子]