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【インタビュー 21歳の肖像│前編】広島レジーナ柳瀬楓菜「ボールを奪えたり、点を獲れたり、いいプレーができれば、疲労なんてゼロになります」

広島レジーナの柳瀬楓菜。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

「広島を背負っていく選手」レジェンド近賀ゆかりも期待を寄せる若きダイナモ。

「サンフレッチェ広島レジーナを背負っていく選手」

 広島のレジェンドである近賀ゆかりからそのように評される21歳、それが柳瀬楓菜(やなせ・ふうな)だ。中学からボランチとしてプレーし、膨大な中盤のスペースを153センチというフィジカルを感じさせない研ぎ澄まされた鋭い反応で相手のパスを摘み、突破を食い止め、レジーナの攻撃へとつなげる。

 チームを支える柳瀬は、どのように現在のようなプレースタイルに至ったのか。そして、その先に見据えるものとは。支えるもの、根源にあるもの、その話を聞いていくと……彼女の魅力が浮かび上がってくる。

広島のボランチを担う柳瀬楓菜。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

――中盤のとても広大なスペースを一人で任され、チームとして連動しているとはいえ、さすがにかなりのスタミナがないと成立しませんよね?

柳瀬楓菜(以下、柳瀬)  特別に走り込んでるということはありません。元々結構走れるほうではあったんですよね。妹と同じチームに通っていた頃は市をまたいで一緒に片道1時間かけて自転車で通っていましたから。練習前のウォーミングアップ、練習後のダウンみたいなものです。あとは高校が藤枝順心だったので、もちろんそこではかなり走っていました(笑)」

――無意識に“走る”環境に慣れていたのかもしれませんね。

柳瀬 特に今は、ボールを奪えたり、点を獲れたり、いいプレーができれば、疲労なんてゼロになります(笑)。ビックリするくらい回復するので、エンドレスに走れますよ。

——いい体質をお持ちで(笑)。スタミナ面もですが、判断、予測と柳瀬選手が得意とする特性が広島で今ガッチリとハマっています。WEリーグを戦うことによって研ぎ澄まされたものは?

柳瀬 なんと言ってもポジショニング! システムは広島に入ってから、高校と同じ4-3-3でした。ポジションも全く同じ。ラッキー! いつも通りだ! ってやったら……全く違いました(笑)。そこまでボールをもらいに行かなくても、いい位置に立っていたら、周りが見てくれているので、自然にいいボールが来るって気付いた。動きすぎなくていいんです。高校の頃は下の位置までパスをもらいに行っていたんですけど、自分が動かなくてもパスで剥がせることも多い。そうなると他のところに労力を使えるので、よく周りが見えるようになりました。簡単に前を向ける感覚を得たのは広島でプレーするようになってからです。

「試合を重ねていくうちにスタミナとボール奪取のところで自信がつき、『これが自分の形だ』って思えるようになりました」写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

——広島で3シーズン目を迎えていますが、ここまで振り返るとどのようにステップを踏んできましたか?

柳瀬 高校を卒業してすぐだった1年目は、本当にガムシャラにサッカーをしていて、みんなについて行くのが大変で、自分のことで精一杯でした。周りはいろんな経験をして集まってきている選手ばかりで、スピード感をはじめトップの基準についていくだけで必死でした。それが馴染んできたのは試合に出続けられるようになってからですね。試合で評価してもらわないと意味がない。試合出場を重ねていくうちにスタミナとボール奪取のところで自信がついてきて、「これが自分の形だ」って思えるようになりました。

――153センチだからこその強みがあるのが柳瀬選手。今、足したいものがあるとしたら?

柳瀬 反応、です。今、まさにそこを上げて行っているところです。相手よりも出だしが遅かったり、奪い切れなかったりすることもある。その予測をいかに早くして奪い切るところまで持って行くか。昔からここに来そう! っていう感覚はありましたが、今はむしろ「ここに来い!」って思っています。スペースをわざと空けておいて、そこに来させて(ボールを)奪うのが好きです。だから守備の時は、自然とそういう位置を取っていますね。

――試合中、ご自身のバロメーターになっているものはありますか?

柳瀬 ボールに関わる回数かな。タッチが増えるといいプレーが増える。逆にミスしている時ってあまりボールに触れられずにいるかもしれません。

――そこは相手とのマッチアップに左右されますね。自分のプレーを出せる時と出せない時、それがチーム状態に……。

柳瀬 すっごい影響します! よくやってる私……(涙)。でも理想は”常に関わり続けているボランチ”です。状況が悪い時でも一本のパスで変えられるのがボランチの役割でもあります。

――柳瀬選手には、その奪った1本で一流れを変えられるプレーがありますね。

柳瀬 好き! まさにそういうプレーです(笑)

――ゴールより、狙って、狙って……ボールを奪った時の柳瀬選手のテンションは、マックスまで上がっているように見えます(笑)

柳瀬 マジでそれです! そりゃ点を獲れた時は嬉しいです。みんなが喜んでくれるし、チームを一番助けられるから。でも、個人的には、ここでしょ、こう狙って、こうやって、ほらここ! みたいな感じで予測してボールを奪えた時が一番上がります。

初の主要タイトルとなるWEリーグカップも制覇!写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

――そのためにはスペースを空けないとハメられないから、相棒と距離を絶妙に保っていますよね。ボランチが今シーズンの広島の好調の秘訣だと感じます。柳瀬選手、渡邊真衣選手、小川愛選手、3人がそれぞれ違う持ち味を出して、多彩な中盤からの攻撃を生み出しています。

柳瀬 (良くも悪くも)絶対に自分らに掛かっていると思います。だからお互いにたくさん話しています。やればやるほど分かり合えて、それが積み上げられています。今シーズン優勝できたWEリーグカップは小川選手と(ボランチコンビを)組み、一緒にやっていて「無敵だ」って思えました。負ける気がしなかったんです。どんな相手でも「今のウチらならできるね」って二人で話していました。1年目はお互いあまり試合に出られず、シーズン後半からようやく出始めたんです。でも次のシーズンは私がケガで離脱してお互いに合わせる機会がなかった。3年目にようやくフィットした感がありました。

――そんな時に今度は小川選手がケガ……。そこから渡邊選手と本格的な模索期間に入りました。

柳瀬 メチャクチャしんどかったですね。でもボランチが起爆剤になれて、広島はそういった一つのプレーが全員に伝わって行くチームなので。私は踏ん張れました。

――カップ戦で初タイトルを獲得し、その後、開幕したリーグ戦では対戦相手の対策に苦しむスタートを切りました。ですが皇后杯では粘りが復活し、準決勝で三菱重工浦和レッズレディースを延長PKまで追い詰めました。逆境から這い上がってくる粘り、それを広島が見せられるのはなぜ?

柳瀬 このチームが悪い時でも崩れないのは、近さん(近賀)と福さん(福元美穂)の力、影響がすごく大きいと感じています。新加入で入って練習をしていくうちに、近さんはこのチームなら優勝を狙っていい、狙えるんじゃないかって話してくれて。話していくうちに私も「獲りたい」と思いました。その思ったことをみんなに伝えたほうがいいと、選手ミーティングを開きました。今シーズンから副キャプテンを任されていたので、「このカップ戦を獲りに行きたい!」と私からみんなに伝えました。

――近賀選手は「初タイトルを獲るならこのカップ戦だ」と予言していました。そんな近賀選手に「これからレジーナを背負っていく存在」と言われていることについて、柳瀬選手はどのように受け止めていますか?

柳瀬 素直に嬉しいです! 3年目になって副キャプテンも任されるようになって、考え方が本当に変わりました。自分のことで精一杯だった1年目から、より結果というところと、チームがどういう状況なのかっていうのを、自分だけではなく、周りにも目を向けるようになりました。まだまだですが、広島はもっと強くなれるチームなので、この年代から押し上げていきたいと思います。

取材・文・写真/早草紀子

※柳瀬選手のプライベートの一面にも迫る後編は明日3月2日に掲載します!

21歳にして副キャプテンに。その腕に”キャプテンマーク”をつける時も。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

Posted by 早草紀子

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