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【論説】堂安律が掴んだ「完全移籍」の価値。10代でのオランダ行きが新たなトレンドになるか

今季リーグ9ゴールを決めたフローニンゲンの堂安律。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA

EU外選手の年俸が抑えられる「20歳以下」の”試用期間”のわずか1年で結果を残す。

 EU外のプロサッカー選手がオランダでプレーする場合、クラブは年俸40万ユーロ(約5000万円)以上を支払わければいけない規定がある。

 2014年から2016年夏までの一時期、1912年締結の「日蘭通商航海条約」によって、日本はスイスと同等の「最恵国待遇」であると認められ、サッカー選手も年俸に制限なく(年俸が安くても)プレーできた。太田宏介(FC東京→フィテッセ)らがこの時期に移籍している。

 ただオランダとスイスの規定見直しにより、2017年以降、改めて日本人選手に対する上記の最低年俸ルールが”復活”した。

 すなわち、オランダのクラブから「5000万円」の価値があると評価されなければ、正式契約を勝ち獲れなくなったのだ。しかもエールディビジ(オランダ1部リーグ)の平均年俸は4200万円。EU外選手は少し高めの年俸が保証されている、まさに”助っ人”だ。

 ただし、例外がある。20歳未満はその規定の適用外になるのだ。

 年俸は半額の20万ユーロ(約2500万円)以上が最低条件。19歳だった堂安(98年6月16日生まれ)はこのタイミングを生かし、2017年夏、G大阪からフローニンゲンにレンタル移籍でチャレンジする権利を手にした(現地紙では、年俸30万ユーロだと報じている)。

 響きは悪いものの、言ってみれば半分”試用期間”。そこから正式契約を勝ち獲るのは、とても難易度の高いことだった。

 新たな環境でわずか1年、しかも10代にして、40万ユーロ以上の価値があると認めさせなければいけなかったのだ。

 そんななか、堂安はフローニンゲンに所属したアリエン・ロッベン(バイエルン)の2001-02年の6得点を超えるエールディビジ9ゴールを記録。同じく06-07年に在籍したルイス・スアレスの10得点に1点差。カップ戦を含めると、堂安本人が目標としていた二桁得点ーー10ゴールを記録した。

 そして4月23日、フローニンゲンが買い取りオプションを行使し、ガンバ大阪から完全移籍で獲得することが正式に発表された。2018-19シーズンからの3年契約。移籍金は200万ユーロ(約2億6500万円)と言われる。

 2000年以降一度も2部リーグに降格していない安定感のあるフローニンゲンは、堂安がさらに進化を遂げる必要な戦力と判断した。それはその後のビッグクラブへの移籍を、クラブが視野に入れていることを意味する。

 加えてフローニンゲンは2015年に国内カップを制し、クラブ史上初めて主要タイトルを獲得している。堂安にとっては、活躍次第では再び主要タイトル獲得や欧州カップ戦への出場も可能だという環境もまたやり甲斐につながるはずだ。

 そして堂安の成功によって、オランダのクラブが再び10代の日本人選手に注目する流れが出てくるかもしれない。現在、プレミアリーグを中心に選手の年俸は高騰し、その莫大な資金が欧州各国に流れ込み、トップリーグでは育成よりも選手獲得に動く傾向が強まっている。さらにブンデスリーガなどではより若い有望なアフリカ系のタレントを青田買いし、プレミアリーグに売り込むという人の流れもできつつある。

 そのため、以前のようなJリーグから欧州主要リーグへの移籍が非常に難しくなっている。最近の若手選手のブンデスリーガ2部クラブへの移籍が目立つのは、そういった背景があるからだ。

 となると、オランダ(できればトップリーグのエールディビジ)への10代での移籍は、日本人選手にとって、貴重な選択肢になってくる。

 堂安が掴んだ完全移籍の価値は、日本サッカー界にとっても大きい。もちろん、まずは目の肥えたオランダのスカウトの目に留まることが第一歩になる。10代でのオランダ挑戦――。世界を目指す日本人選手の新たなトレンドになっていくか。

文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI

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