【原口元気インタビュー・後編】ベールスホット移籍は“当たり”。自然体で向き合う今、「サッカーは本当に楽しい」。浦和からの移籍の経緯、ポープ・ウィリアムとのいい関係
ベールスホットでの原口元気。写真提供:ベールスホット
英語を学び、セカンドキャリアを見据える「アントワープ、来たほうがいいですよ。非常に面白い街」
原口元気はほぼ「直感」でベールスホットへの移籍を決断したという。そして、「来てみたら本当にいいクラブだった。“当たり”でした」と振り返る。
インタビューの後編では、新たなプレジデント(代表取締役)に就任した大野祐介氏とのやりとりなど加入決定までの経緯、「本当のポープは、たぶんみんな知らない」と話すチームメイトのポープ・ウィリアムとの関係に加え、サッカーとの向き合い方の変化をたどりながら、自然体でプレーを楽しむ35歳の現在地と、その先に見据えるセカンドキャリアについて語ってくれた。
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――ベールスホットのどういったところに、原口選手は魅力を感じたのでしょうか。
「一つはこの街です。また、英語を学びたいと思っていたので、ベルギーならそれもできる。何より、2部に降格したものの、1部での実績もある非常に魅力のあるクラブで、チャンスがあるならチャレンジしたいと伝えました」
――プレースタイルといいますか、自分に求められる役割に合わせて、スタイルを変える必要があると考えたりはしましたか?
「正直なところ、本当に何も考えずに来ました。今までだったら監督や強化部と話してからチームを選んでいましたが、今回は、とりあえず何も知らずに来た感じでした。来てから監督やGMと話して、中盤でプレーすることになりました。それまでは何も聞いておらず、クラブの環境面と街ぐらいしか考えずに来た感じでした」
――「冒険」ですね。
「そうですね。こんな決め方をすることはまずありません。僕にとっては、ヨーロッパに帰ることを最優先にしていました。それがかなうならいいかと、あまり深く考えずに来ました」
――頭で考えすぎて行動できずにいる人も少なくありません。その決断と行動力がやはり原口元気そのものを築いてきた原動力ですし、加えて純粋に楽しそうです。
「楽しいですね。来てみたら本当にいいクラブだったし、やりがいのあるクラブなので。けっこう直感的に来ましたけど、“当たり”でした」
――このほど、選手代理人をはじめ、日本サッカー界で幅広く活動してきた大野祐介さんが、ベールスホットのプレジデント(代表取締役)に就任しました。
「僕から当時(進路を考えていた際)、大野さんに電話して、『チャンスがあるなら行かせてください』と直談判したのがきっかけでした。もともと大野さんと接点はありましたが、電話番号を知らなかったのでチームメイトに聞いて、そこからでした。日本人を獲りたいという噂は耳にしていて、僕がその第一歩になれるんじゃないかと思いました。今、主力として出場し、クラブとの関係も築けています。日本とベルギーをつなぐ架け橋になり、クラブとしても両国の関係を深めていきたいです」
――まったく新しい、フレッシュな挑戦だと伝わってきます。
「もう、めちゃくちゃフレッシュでした。あらゆる面で。最初はドイツ語しかできなかったので、コミュニケーションも少し苦労しました。ただ、英語は僕らも学校で何年間も勉強しているので、思い出しながらしっかり勉強すれば、コミュニケーションを取れるようになるまで、そこまで時間はかかりませんでした。人柄の面でも、ベルギーにはドイツよりオープンな人が多いと感じます。そこも溶け込みやすかった要因の一つです」
――クラブから求められる“リーダーシップ”も受け入れて、「やってやろう」という感じですか?
「とはいえ、ベルギー2部なので。実績面ではラジャ・ナインゴラン(パトロ・アイスデン・マースメヘレン/ベルギー代表30試合・6得点)がいますけど、リーグ内では僕がその次ぐらいにキャリアのある選手だと思います。そう考えると、必然的にリーダーになっていく部分はあるかなと思います」
――ポープ・ウィリアム選手との関係は? 開幕戦では、まさにポープ選手らしいリーチを生かしたスーパーセーブを見せて、無失点勝利に貢献していました。
「ポープは面白いですね。ツイッターで暴れていますけど(笑)、本当のポープは、たぶんみんな知らないと思います。彼は本当に純粋なキャラクターですし、あのように見えて、センシティブなタイプ。非常にいいやつで、ピッチ上では常に落ち着きがあって、素晴らしい選手です。関係性は非常にいいです。あと、何がいいって、好奇心が強い。こっちの生活にもすぐ順応しました。そういう部分で、僕は好きなタイプです」
――確かにヨーロッパ、海外に挑戦する時、何より「好奇心」は大切な要素ですね。私も以前、ドイツで生活した経験があります。
「大事ですね。倍井謙もそうですけど(昨季、名古屋グランパスからベールスホットに期限付き移籍し、今季はコルトレイクでプレー)、僕もブンデスリーガ時代から、いろいろな日本人のチームメイトがいたなかで、『この選手は合うな』『この選手は合わないかも』と感じることがありました。好奇心があり、外国人選手とも積極的に関わりながら、さまざまなことにチャレンジできる選手のほうが、海外ではより伸びると思います」
――今シーズンの原口選手自身の目標を聞かせてください。
「どちらかというと、個人的な目標はなくなってきています。何より、チームを1部へ昇格させることが一番です。そのなかで、ベルギーと日本の架け橋になり、日本企業などとの関係づくりにも貢献したい。さらに、セカンドキャリアに向けて経験を積み、英語を含めたさまざまなスキルも高めていきたいです。まずは昇格を果たし、常にチームをいい方向へ導いていきたいと思っています」

――コンディショニングの面で心がけていることは?
「昔ほど気にしなくなりましたね。20代の頃なんて、極端なぐらい神経質になって、いろいろやっていました。この年になってからのほうが自然体です。子どもと遊ぶ時間も多くなりました。練習でめちゃくちゃ疲れて帰ってきても、平気で3時間、外で遊んだりしなきゃいけなかったりもします。僕自身、子どもとの時間、家族との時間を大切にしたいと思っています。でも昔の自分だったら、そういう選択ができなかったと思います。そういう意味で、少し落ち着いてきたのかなというのはあります」
――これまでの蓄積がベースにあるとも言えますね。
「ベースはあるので、最低限、何をしなきゃいけないかは理解しています。昔のように、本当にちょっと病的にストイックにやるみたいなことは減ってきているのかなと」
――元気に初めてインタビューしたのが確か2010年、今から16年前で、浦和時代は何度か話を聞かせてもらいました。確か「ポテトチップスは食べたことがない。食べたいとも思わない」と言っていて、衝撃を受けたのを今も覚えています。
「そういう部分は今も変わりませんよ。しっかりやっていると言うよりも、もうそれに慣れているので、別になんとも思わないというのが正直なところです。少し緩くなったというか、もう少し自然に生きているなという感じです」
――なるほど。
「20代はそれで良かったなと思います。本当に上を目指していくうえで、そういう期間も大切でした。何が正しいかは分かりませんが、20代、30代前半までは、サッカーに対してそういう向き合い方をしていました。それも僕にとって一つの経験としてあり、それによってこのキャリアを作れたのかなと思います」
――朝食をしっかり食べるとも話されていましたね。基本的なルーティンは変わらない?
「食べる、寝る、リカバリーする、トレーニングするという基本は変わらず、その量の調整ですね。25歳ぐらいまでは、本当に狂ったようにトレーニングしていました。週末の試合に向けてというより、数年後を見据えてトレーニングしていました。それが良かったのかどうかは分からないですけど、今は本当に週末に向けてしっかり調整して、やるべきことをやるという、シンプルな形で進めています。
浦和に戻った時も、けっこうやりすぎた部分があるかなと思っています。僕にとって本当に思い入れのあるクラブで、そこで最後のチャレンジとして成功したい気持ちもあって、少し神経質になりすぎた部分もありました。もしかしたら、今と同じくらい力を抜いて浦和でも取り組めていたら、もう少し上手く進んだのかもしれません。そこは少し反省も含めて、今はより自然体に生きているという感じです」
――とはいえ、それを含めてプロセスですね。浦和での経験があってこそ、という。
「後悔はしていません。もちろん結果がすべての世界なので、浦和での挑戦は成功とは言えなかったと思っています。それは非常に残念でした。でも、僕のキャリアはまだ続いていますし、今はここで充実してプレーできています。浦和での経験も、今につながっていると感じます」
――サッカーを“楽しめている”と感じますね。
「それが大きいかもしれません。ピッチ内でもピッチ外でも自然体でいることで、パフォーマンスを発揮できています。ここに来るまでに、ブンデスリーガ、日本代表、そして浦和での挑戦を経て、少し疲れていた部分がありました。一度、サッカーをあまり楽しいと感じられなくなったんです。このままサッカーを好きではない状態で現役を終えるのは嫌だったので、もう一度、本当に好きになるための努力をしようと決めました。
ここに来て、再び『サッカーは本当に楽しい』と感じられています。そのきっかけを与えてくれた、このクラブには感謝しています。セカンドキャリアにつながる経験など、得たものはいろいろありますが、一番うれしいのは、その感情を取り戻せたことです。ここに来て、本当に良かったと思います」
――貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。いやぁ、アントワープに行ってみたくなりました。
「アントワープには来たほうがいいですよ。非常に面白い街ですし、このクラブにも大きな魅力があります。1部に昇格できれば、さっき言ったように新しい章が始まります。まずは、このクラブをもう一度1部へ導くこと。それが僕の使命です」
――ベルギーリーグの規模は決して大きくないものの、こうして街にクラブチームが根付き、生活の一部にサッカーがある感じですか?
「そうですね。ただ、浦和もそういう街なので、そこはあまり変わりません。浦和のようにサッカーが街に深く根付いているクラブは、日本では数少ないと思います。ヨーロッパでは、それが自然な光景になっています」
――レッズサポーターから「ちょっと原口元気を見に行くか」と、アントワープを訪れる方が出てきそうです。
「日本とは全然違うサッカーが見られるので、『こういうサッカーもあるんだ』と知ってもらいたい。浦和のサポーターが来てくれたらうれしいですね」
前編はこちら>>クラブW杯で流した涙「レベルが違った。もう一度ヨーロッパで仕事をしたいと思った」。浦和での挑戦に一つの区切り、ベールスホットで1部昇格へ挑戦




