槙野と青木のバトルよりも…久保建英の進化を物語る「ラスト1分」の悔恨
FC東京の久保建英。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI
FC東京の長谷川監督も称賛したが、本人に笑顔なし。その理由は――。
[J1 5節] 浦和 1-1 FC東京/2019年3月30日/埼玉スタジアム2〇〇2
FC東京の久保建英が途中出場から、カウンターを発動させて75分の先制点につなげた。しかし90+4分の森脇良太の劇的同点ゴールに沈み、チームは16年ぶりの敵地・埼玉スタジアムでのリーグ戦勝利を目前――あとワンプレーで逃した。
62分に永井謙佑と交代出場すると、今季起用されてきた2列目ではなく最前線に入った。長谷川健太監督はその狙いを次のように語っていた。
「建英はU-22代表のミャンマー遠征で、気温40度のなかで3試合をこなし、先発は1試合だったが2週間で今日4試合目。いい状態ではあったが、90分は持たないと感じていました。何より大森も素晴らしい選手です。勝負どころで建英のカードを切ろうと考えていました」
その思惑が的中した。75分、浦和のクロスから前線へ弾かれたボールを久保が収める。青木拓矢との競り合いに勝って持ち運びカウンターの起点となり、東慶悟へのスルーパスを放つ。そして東のクロスからディエゴ・オリヴェイラの先制点が生まれた。
長谷川監督は久保のプレーを称賛した。
「『点を取ってこい』とシンプルに送り出しました。彼はこういう大舞台で必ず結果を残してくれると思いました。守備の負担を減らし、できるだけパワーを攻撃に使おうと、これまでより1列前の前線に入れました。槙野にぶつかっても負けず、青木と競り合ってもボールを失わず、前線にタメを作りました。今日も素晴らしいプレーを見せてくれました」
一方、久保自身は試合後のメディア対応時、いっさい笑顔を浮かべなかった。
先制点の起点となる東にスルーパスを放ったシーンは、「自分のヘディングでは届かないと思い、そこで相手が食いついてくるのが見えて、裏へ出しました。(青木拓矢に競り勝ったシーンは)あまり余裕がなかったので、すいません、よく覚えていません」「自分のパスよりも慶悟さんのフワっとしたボールのほうが良かったと思います」と振り返った。
何よりも「チームを勝利に持っていけなかったので、そこはあまり評価できないです」と勝点3を取り逃したことを悔やんでいた。
「押し込まれる時間が多いなか、いつもより前の位置でプレーさせてもらうことで、より攻撃に直結する仕事ができたかなと思います」
そう振り返るように、FWで起用された意図に久保は応えた。ただ、一つ悔やみ切れないのが、アディショナルタイムの「ラスト1分」のチームへの貢献だった。
「アディショナルタイムが4分で、そのかなり長い時間のなかで3分ぐらい経過したであろう時です。もう少し、自分とディエゴ(オリヴェイラ)が下がって対応しても良かったかなと思いました。自分としてはですが……」
浦和は捨て身で最終ラインの選手も攻撃参加していた。その選手たちに対し、どのように対応すべきだったか。自分も下がったほうが良かったのではないか。もちろん、再びブロックやクリアしたボールを、久保かディエゴ・オリヴェイラがキープできれば、それはそれで役割をまっとうし、勝利に導けたはずだ。たら、れば、になるが、そのあたりの重要な「ラスト1分」の勝利への守備面の貢献ができなかったのではないか、と自問自答していた。
長谷川監督の言う通り、目の肥えた観客の集う約4万人の前で、その雰囲気を手に取るようにして、しっかり一仕事するあたりはさすがだった。一方、開幕からリーグ全試合出場を続ける17歳の久保は、相手の誰に競り勝ったかどうかよりも、また一つ高い次元で、チームの勝利について思考を働かせるようになっている。
取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI