【浦和】「W攻撃的ボランチ」スコルジャ監督が鹿島戦で見せたチャレンジの意図。後半“良くなった”が、目指すはその先
伊藤敦樹。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA
後半にゴールを奪えている一方、ACL決勝後、前半に新たなトライを続ける。
[J1 17節] 横浜FC-浦和/2023年6月8日19:00/ニッパツ三ツ沢球技場
ハーフタイムを挟んで岩尾憲が投入された鹿島アントラーズ戦(△0-0)後半の浦和レッズは、確かにビルドアップの問題が改善され、ゴールへ向かう回数も大幅に増えた。鹿島の一部の選手がドローOKという戦い方を選択したことも影響したが、試合終盤はほぼ一方的に攻めることができた。しかし、ゴールはならず。マチェイ・スコルジャ監督は試合後、「後半は確かにゲームをコントールできた。ただチャンスの数自体が少なかった」と総括していた。
スコルジャ監督はこれまで、先日行われたAFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)決勝のアル・ヒラル戦を見据えて、シーズン開始からチーム作りに取り組んできたと明かしていた。そして鹿島戦の後半も、ACL決勝をベースとした陣容と戦術で戦っている。
時間をかけてきた戦い方でもあるだけに、“後半のほうが良かった”。しかし決して“後半の戦い方がいい”というわけではない。選手や監督の話を聞く限り、目指しているのはその先だと感じられた。
鹿島戦の前半、スコルジャ監督は新たなトライを試みていた。
連戦での出場が続いていたためコンディションを考慮し、岩尾を今季初めてスタメンから外し、ボランチは伊藤敦樹と安居海渡のセットが組まれた。伊藤によると、スコルジャ監督から「二人とも8番のようにプレーしてほしい」と要望があったという。
より高い位置、気持ち1列前で戦うイメージか。Jリーグであれば、2013年に四国初のJ1昇格を果たした徳島ヴォルティスの濱田武&柴崎晃誠のボランチコンビが、まさに“ダブル8番”として強烈なインパクトを残したことが記憶に残る。今回は鹿島のハイプレスに対抗する意味合いもあったに違いない。ただ、そうした噛み合わせのなか、いずれも“前”へ意識してほしい、ということだった。つまり“ダブル攻撃的ボランチ”だ。
立ち上がりは強度でやや鹿島に上回られたものの、次第にそのあたりも挽回。徐々にボールを奪える(引っかけられる)ようになっていった。それでも、そこから興梠慎三&ブライアン・リンセンの前線を活用したり、サイドバックの攻め上がりを促すようなアタックはなかなか見せられなかった。スペースの活用という点で、若いボランチコンビは最後まで課題を残した。
そして後半、岩尾がボランチに入る。状況に応じて最終ラインまで落ちてボールを受け、広い視野を生かして、サイドの背後を突くキックなど効果を発揮。選手たちからの右サイドを「ビルドアップの出口」として生かしたいという要望にも応え、前半問題の起きていた箇所を、むしろチームの武器にしていった。岩尾のいまなお進化する技が、改めて重宝された。
だから、確かに後半のほうが良かった。が、スコルジャ監督がここから目指したいのは、決して「後半のサッカー」ではない。
浦和がACLのタイトルを獲得できたシーズンは、基本的に守備が整理されていた。今回の決勝アル・ヒラル戦も、基本的にはあくまでこの2試合に勝つための対策を立てて臨んだと、スコルジャ監督、キャプテンの酒井宏樹は語っていた。ACL決勝後の記者会見で、ファイナルの戦いが今後どのようにJリーグに生きるかという問いに、酒井は防戦を強いられつつも一発を狙ったファイナルの戦い方について、「リーグ戦に生きない。この決勝のための戦い方だった」とキッパリ言っていた。
スコルジャ監督はそのACL優勝の成功体験を踏まえつつ、現在、チームを少しずつダイナミックにゴールへ向かうチームに変えていこうと試みている。いずれにせよ指揮官はもっとゴールを欲している。2トップ採用、荻原拓也の左サイドバックでの起用、中盤の組み合わせの模索、外国籍選手の組み込み、そして今回の「ダブル8番」……そのためのトライを試みている。
今季の浦和は後半に20点のうち15ゴールを奪えていると鹿島の岩政大樹監督は警戒していた。ただ、決してスコルジャ監督は“後半勝負”だけを考えているわけではない。あくまでも、前半からハマる形を模索している。
延長戦の末に1-0の勝利を収めた天皇杯2回戦・関西大学戦では、スタメンをターンオーバーさせたものの、延長戦に入ったことで、伊藤、大久保智明、マリウス・ホイブラーテンらもプレーした。そのあたりのマイナス面も、プラス面もあるだろう。
11日のアウェーでの横浜FC戦、指揮官がまず何かしら“チャレンジ”することが予想される。前線の新たな組み合わせを採用? 岩尾に「8番」タイプの仕事を要求することも? スコルジャ監督の攻撃に重点を置いた次なる一手に注目したい。