浦和の拠り所になるか。大槻体制下で浸透する「倒れない」という闘う姿勢
鹿島戦でゴールを決めて歓喜する興梠慎三。写真:徳原隆元/(C)Takamoto TOKUHARA
土壇場で追いつく底力を支える源。いかに勝利につなげるか。
[J1 21節] 浦和 2-2 名古屋/2019年8月4日/埼玉スタジアム2〇〇2
浦和レッズが名古屋グランパス戦の90+3分、関根貴大のゴールで2-2に追いつき、辛うじて勝点1を掴んだ。首位FC東京とは勝点差が離れ、すべてが良かったと言える内容ではなかったかもしれない。それでも最終盤の猛攻は凄まじかった。最後まで諦めない姿勢が、スタジアムに一体感をもたらした。
大槻毅監督の就任後、「土壇場」で追いつく、あるいは勝負を決める試合が多い。
6月1日の新体制初陣の川崎フロンターレ戦、90+5分の森脇良太のゴールで1-1に追いついてみせた。続く6月15日のサガン鳥栖戦、90+3分に興梠慎三の一撃で2-1と振り切り勝点3を掴み取った。
そして最近も7月31日の鹿島アントラーズ戦は88分に興梠のヘッドで1-1とドローに持ち込み、今回の名古屋戦もアディショナルタイムで同点に。2試合連続で山中亮輔のクロスから劇的弾が生まれた。
いずれの試合も、相手チームが守備面に少なからず課題(不安)を抱え、逃げ切りを図ろうとしたその心理的な隙を突いてみせた。最近は山中、杉本健勇といった、攻撃的な交代カードを切ることで推進力を高め、徹底して”攻め切るモード”に切り替え、まさに文字通りゴールへ襲い掛かっていった。
ただ、そんな”粘り腰”を支えていると言えるのが、大槻監督のもとで浸透する、一つのスタンスだ。
大槻監督は名古屋戦後の記者会見で次のように語っていた。
「(ドリブル突破などから)最後にもう一つ行ける可能性があるシーンで、ウチの選手は足を止めずに行き、多少身体がぶつかったとしても倒れず前へ進もうとしています。
今は練習中から『絶対に倒れるな』『ペナルティエリアの中でも倒れるな』と言っています。そういうところを彼らが表現してくれるところは、非常に嬉しく思います。しかし、それを勝点3につなげられないことを、自分自身、すごく不甲斐なく感じています。そこを勝点3につなげられるように、トレーニングしていきたいです」
絶対に倒れない――。シンプルだ。
その姿勢が間違いなく現体制のベースとなり、常にゴールへ向かう拠り所にもなっていると感じる。オフ・ザ・ボールの選手も含め、最後までチームメイトたちが倒れないと信じて試合を進める。
もちろん、大槻監督は「(勝点)ゼロを1にしたということは、ゼロより良かったものの、1を3にしなければならない。今日も鹿島戦も最後に追いついている状況で、なかなか1を3に持っていけずにいる。もう少しゲーム全体をコントロールしていけるようにしたいです」と言った。勝ち切れないもどかしさは、誰もが抱いている。
また指揮官は、試合開始のエンジンのかかりの悪さにも言及していた。
「見直さなければいけませんが、鹿島戦でも開始1分にコーナーキックから失点してもおかしくないシーンがありました(バー直撃のシュートを放たれた)。同じようなシーンが続いて、今回は失点した。そこに我々には隙があったのではないか。また、試合の入りのところで、もしかしたらゲーム前のウオーミングアップを含めて、もう少し考えなければいけないのかなというところを感じています」
体力的にも「フル」である状態で、なぜ隙が生じているのか。そこにも課題を感じ取っていた。
浦和とは、どういうチームであるべきか?
ミハイロ・ペトロヴィッチ(現・北海道コンサドーレ札幌監督)体制の終焉後、3年連続でのシーズン途中の監督交代劇とピッチ上でのスタイルの統一感のなさから、「浦和レッズとは?」という大きなテーマが、ファンやサポーターの間でも議論がかわされている。
チームが過渡期を迎えているのは紛れもない事実。そのなかで勝利のみならず(ただ勝てばいい、というだけでなく)、共有し合える、共感し合える「浦和レッズ」が希求されていると感じる。
埼スタのピッチは、選ばれし22人のみが立てる場だ。浦和は試合前のセレモニーを一切行わず、マスコットもピッチには立たない(ピッチに立つ必要はなくても、浦和のマスコットの活用法には課題を感じるが)。その浦和が貫いてきたスタンスと、大槻監督が浸透させる「倒れるな」という姿勢は間違いなく符号する。
もちろん結果が出なければ訴求力は落ちるし、観客数もなかなか増えずにいるが、指揮官流の発想でいけば「何ができているか」にこそ目を向けたい。レッズは最後まで倒れない――。そういう純粋な情熱こそが求められていて、その雰囲気は間違いなく、少しずつ放っていけている気がする。”何か”を探っている浦和にとって、それは大切なキーワードになるのではないだろうか。
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[取材・文:塚越始]
text by Hajime TSUKAKOSHI