ミシャもぼやいたVARのジレンマ「グレーゾーン」は残る
VARの「オン・フィールド・レビュー」の際に使われるモニター。写真:上岸卓史/(C)Takashi UEGISHI
川崎の1、2点目のようなシーンは、VARからの情報をもとに主審の「主観」が尊重される。
[ルヴァン杯 決勝] 札幌 3(4PK5)3 川崎/2019年10月26日/埼玉スタジアム2〇〇2
ルヴァンカップの決勝トーナメント(プライムステージ)では、Jリーグで初めてVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が採用された。このあとのJ1・J2参入決定戦、そして来季からはJ1全試合で導入される。
北海道コンサドーレ札幌対川崎フロンターレのルヴァンカップ決勝では、荒木友輔主審が自らビデオをチェックする「オンフィールドレビュー」を一度実施。当初イエローカードを提示していた谷口彰悟に対し、決定機阻止の条件を満たすドグソ(DOGSO)であるとしてレッドカードで退場処分とした。
その「オンフィールドレビュー」の際、電光掲示板に「VAR」により試合が中断中であると表示された。ただ、正確に言えば、「VARを経ての主審によるオンフィールドレビュー」であり、主審と別室にあるVARとの交信は基本的には常に行われている。
改めて、VARが介入する条件を整理したい。以下のシーンが対象となる。
・ゴールに関わるシーン(それまでの一連のシーン)
・ペナルティキックに関わるシーン
・レッドカードに相当する行為(2枚目を含めイエローカードは対象外)
・間違った選手への警告・退場
つまりは、ゴールに直結するシーンと、レッドカードに関わるシーンに、VARは登場。主審が「オンフィールドレビュー」で直接確認していなくても、主審をアシストする形で、ゴールシーンはすべてVARがそこまでの過程をすべてくまなくチェックしている。
札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督が試合後の記者会見で指摘した、川崎の1点目、2点目も、主審がVARと連絡を取り合ったうえで、ゴールと認定している。
ただし――VARにより、決定的なシーンでの誤審はほぼ防げるようになるものの、「グレーゾーン」は今後も存在する。
ペトロヴィッチ監督は次のように不満を語っていた。
「判定のところは、あまり言いたくはありませんが、私たちの1、2失点とも、疑問の残る判定だったかなと思います。今日はVARが導入された試合での判定でしたが、ただ、1失点目、2失点目は疑問に残りました。日本ではこうした公式の記者会見で、判定について語ることはタブー視されていることは知っています。ただ、例えば2点目はハンドかどうか際どいシーンでした」
62歳の指揮官もぼやいた小林悠が胸トラップからシュートを突き刺した88分のゴールシーン。TVの画像を切り取った画像がSNSなどに出ているが、明らかに腕に当たっているかどうか(若干でも離れているように見える)は微妙だ。実際、そのシーンを通常の再生スピードで見ることもVARは重視している。小林がしっかり胸でコントロールしている、と主審は判断した。
つまりVARが採用されても、ハンドに関しては「グレーゾーン」が残る。最終的には、実際に目の前で見ている主審の主観による判断が尊重される。
また、時間が大幅に割かれるオンフィールドレビューは省略できる場面では活用しない。VARが「事実=ファクト」を伝え、あとは主審に委ねることになる。
だからオフサイドに関しては、より事実が明らかになるので、VARの判定が尊重される。たが、ペトロヴィッチ監督が指摘した川崎の1、2点目のように、ハンドやファウルに関しては、基本的には主審の判断が尊重される。
指揮官が発したような指摘やぼやきは、来季も起こり得るということだ。
一方、今回120分間に決まった6ゴールは、結果的に、すべてVARを介しても問題なく、取り消されることはなかった。
とはいえ今後は試合の流れを大きく左右する一発、決まっていれば勝利(優勝)というゴール……それらが取り消される可能性は高まる、というよりも、ゴールにつながる一連のシーンもくまなくチェックすることになり、取り消される数は増える。
来季はJ1全試合でVARが導入される。誤審は間違いなく減る。
一方、ゴールのあと、あの主審がVARと交信する、何とも言えない「間」を待たなければいけなくなる。そしてVARを採用する世界中の課題と言えるが、ぬか喜びは間違いなく増えてしまう。
来シーズンのJリーグでは、より正確なジャッジが下されるとともに、そういった複雑な気持ち……ジレンマと向き合うことも求められる。
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[文:サカノワ編集グループ]
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