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なでしこMVP&得点王。田中美南が明かす移籍を決めた真の理由「INACで5年連続得点王を獲るほうがワクワクした」

田中美南(9番)らINAC神戸の新加入選手。(左から)阪口萌乃、ファン・アヒョン、田中、西川彩華、菊池まりあと多士済々(さらに長江伊吹も)。写真:早草紀子/(C)Noriko HAYAKUSA

東京オリンピックからの逆算。「INAC+ベレーザ」で最強を目指す。

「思惑通りの補強ができました」

 安本卓史社長の言葉どおり、ゲルト・エンゲルス新監督を迎えた2020シーズンのINAC神戸レオネッサは、新体制の戦力バランスが絶妙だ。

 ジェフユナイテッド千葉・市原から守備を身上に最終ラインからボランチまでこなす西川彩華、アルビレックス新潟から抜群の攻撃センスを武器にサイドバックまでカバーできる阪口萌乃、ユース世代の代表を経験している長江伊吹、菊池まりあ、そして韓国からファン・アヒョンと、即戦力から期待値の高い選手まで、多士済々を新たに加えた。

 何よりの目玉が、昨年ACLのパイロット版を含め女子4冠を獲得した日テレ・ベレーザのエース・田中美南の加入だ。なでしこリーグの2年連続MVP、4連連続得点王に輝いた、ベレーザのキャプテンのINAC移籍は衝撃を与えた。

 だが、少なくともこの1年間の彼女の葛藤を見ていれば、その決断は大いに納得できるものだった。

 2013年になでしこジャパン(日本女子代表)に初めて招集された。高倉麻子監督就任後の2017年からはコンスタントにメンバーに名を連ね、多くのチャンスが与えられてきた。

 しかし、世界の強豪国との勝負どころで、ゴールを奪い切れない。そこで試行錯誤していた田中だが、昨年のフランス女子ワールドカップ(W杯)でメンバー落ちを味わう。当時は「なぜリーグ得点王を選ばないのか」という風潮にあったが、落選の理由を田中本人が一番自覚していた。

「壁」を越えるための戦いはそこから新たに始まった。自分に足りないものは何か、どこを磨けば日本代表の舞台でさらに活躍できるのか。自問自答しながらの戦いを続けた。

 昨年10月のカナダとの親善試合で代表復帰のチャンスを掴む。そして12月のE-1選手権では、女子W杯への道が閉ざされてから磨いてきたゴール前でのプレー精度、動き出しや相手との駆け引きを思い切って出していった。しかし――それでも、思うような結果を残せなかった。

 4年連続で田中が得点王を獲得できたのは、ベレーザの高いレベルで揉まれ続けたきたからに他ならない。

「ベレーザで次のシーズンをプレーする自分は想像することができていました。でも、例えそれでオリンピックに出られたとしても、そこでの自分のプレーも想像できた」

 田中は言う。

 このままではベレーザには貢献できても、自分自身の大きな変化は期待できない。田中が東京オリンピックに懸ける思いは強い。すべてはそこからの逆算だ。そして、田中は自分自身の中で、こんな胸の高鳴りを感じた。

「ベレーザでプレーすることは、もちろん考えました。ただ、どこか安パイに感じてしまう。そこで、INACで5年連続得点王を獲るほうがワクワクしたんです」

 田中は嬉しそうに話す。

 ではなぜ、INACだったのか――。

【次ページ】なぜINACだったのか?田中美南が目指す理想のストライカーへ

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